第1章 「食」豊かな紀の川市

(1)「食」豊かな紀の川市

最近、「食育」という言葉を聞く機会多くないですか?
食育という言葉は、明治時代に石塚左玄(さげん)という軍医で食養家の方が提唱し、当時のベストセラー作家だった村田弦斎(げんさい)が広めたものといわれています。

いわく、「知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」、「『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」・・・平成17年に成立した食育基本法の前文に書かれている理念なのですが、少しかたぐるしい感じは否めません。私自身は、「食」を通じて「命」の大切さを学ぶことを「食育」と理解しています。

平成19年、農林水産省から紀の川市に赴任して感じたのは、市内のあちこちで見られる「食」の豊かさです。季節ごとにたわわになっていく桃、いちじく、柿、はっさくなどの果物、たまねぎ、ねぎ、きゅうりなどの野菜。家や職場で身近に私たちの命の基礎となる「食」があふれ、めっけもん広場などの直売所に行けば、新鮮で安い果物・野菜が手に入ります。
世界ではじめて全身麻酔薬による乳がん手術に成功した医聖・華岡青洲(はなおかせいしゅう)の顕彰(けんしょう)施設「青洲の里」では、地場野菜中心の健康バイキングを食べることができます。
コンクリートやアスファルトに囲まれた都会の生活に慣れていた私の子ども達も、身近にあふれる「食」に大喜びでした。
こういった紀の川市の「食」に関する取組を市のPRにも活用できたらいいのにと考えました。

(2)「合併市」紀の川市
紀の川市は、平成17年11月に合併してできた新しい市です。
和歌山県の北部に位置し、北は大阪府、西は和歌山市に接しています。関西国際空港から、車で一時間圏内という利便性もあります。
紀の川や貴志川という清流と周辺に広がる平野、和泉山脈や紀伊山地といった山間部など豊かな自然に恵まれています。
人口は約7万人で、和歌山県で3番目の人口規模です。

新市になってから、紀の川市の京奈和自動車道・打田IC(予定)から泉佐野市の阪和自動車道・上之郷ICを直結する「紀の川関空連絡道路」を国の直轄道路として要望しています。京都・奈良方面から関西国際空港まで最短距離でつなぐこの道路が実現すれば、関西経済の活性化や産業・文化の進展に大きく寄与すると考えられます。

紀の川市位置図

平成20年に策定した長期総合計画では、「いきいきと力をあわせたまちづくり 夢あふれる紀の川市」を将来像に掲げ、「協働」・「人づくり」・「基盤づくり」・「環境づくり」・「行財政」という5つの政策目標のもとでまちづくりを進めています。
市民との「協働」については、新市になってから特に力を入れている分野です。桃山まつり(4月)、粉河まつり(7月)、市民まつり(8月)、青洲まつり(10月)、産業まつり(11月)という紀の川市を代表する5つのまつりは、実行委員会形式の市民主導のまつりとして定着しつつあります。

市民まつり

 

旧町時代は行政主導であったまつりが、市民主導となることによって、市民自ら紀の川市の活性化を考えてもらえる体制づくりが進んでいます。各まつりでは、市職員もボランティア参加するなど市民と市職員の「協働」の取組がはじまっています。

赴任まもないころ、田村武副市長や市長公室の皆さんと細野渓流キャンプ場にホタルを見にいったことがあります。紀の川市の中心部から小一時間かかる山間地にあるところです。
幻想的なホタルの美しさには心奪われるばかりでしたが、紀の川市にこのように美しい自然が残されている山村があることにも新鮮な感動を覚えました。

細野渓流キャンプ場

東京などの大都会では決して見ることのできない美しい自然を市内の随所で味わうことができるのも、「合併市」紀の川市の魅力ではないでしょうか。

実は、私が20代に市町村交流で赴任した鹿児島県末吉町も近隣二町と合併して曽於市となっています。市町村合併の様々な課題について考えさせられることが多くあり、「合併市」紀の川市への赴任が決まったとき、ひそかに運命的なものを感じました。
合併市のまちづくりに関しては、第6章(1)『紀の川のほとりで』~「合併市」紀の川市の現場から~で詳しく紹介していますのでご覧ください。

(3)「果物王国」紀の川市
紀の川市は、和歌山県下第一の農業生産高を誇り、西日本一の果樹生産市です。例えば、いちじくとはっさくは全国1位の生産高、桃は2位、柿は3位、キウイフルーツは4位(平成17年)となっているなど、バナナとパイナップル以外は何でもとれる「果物王国」と言えます。

しかし、紀の川市でも、農産物価格の長期低迷などを背景に、農業の担い手不足が深刻です。その結果、市内の農地の約1割が耕作放棄地になっており、対策が急務です。

このため、平成19年、JAや農業委員会などを構成員とする担い手育成総合支援協議会を立ち上げ、担い手対策、耕作放棄地対策、農業基盤の整備を総合的に行うことにしました。

紀の川市の農業を活性化させるためには、まず、その担い手がいなくてはなりませんし、担い手が安定した農業を経営していくためには、水路や農道など条件が整った優良な農地が必要です。また、耕作放棄となっている農地は、基盤整備を行い農地の条件を整備しなければ耕作してもらえる担い手はいません。全ての取組が総合的・有機的につながることによって、相乗的な効果が発揮されます。

(4)農産物の販売力強化
市内の農家の元気が出る源は、やはり農産物の「価格」が安定的に高値をつけることです。このため、紀の川市では、JA紀の里などと協力して販売力の強化に取り組んでいます。

第1が、紀の川市でとれた農産物を紀の川市で消費してもらう「地産地消」の強化です。
紀の川市には、JA紀の里「めっけもん広場」という日本一の売り上げを誇る農産物直売所や地元産農産物を活用した健康バイキングで有名な「青洲の里」があります。また、小中学校では地元産農産物を使った学校給食も有名です。こういった地産地消の取組を強化することで、市内での紀の川市産農産物の販売を促進します。

第2が、農産物の市外への販売力の強化です。
平成20年から紀の川市産農産物の「トップセール」を行っています。紀の川市長とJA紀の里の組合長という、行政とJAのトップが自ら大都市圏に紀の川市産農産物を売り込みにいくものです。
平成22年度には、7月に桃(大阪)、9月にいちじく・柿(東京)、2月にキウイフルーツ・はっさく(横浜)を行いました。
トップセールスで紀の川市産農産物の「味」だけでなく「心」を消費者に届けることができればと考えています。

トップセールス

また、最新の糖度センサー等をそなえた農産物流通センターを3箇所整備しました。最新式の選果場の存在は、市場への販売力の大幅な強化につながっていくと考えています。
海外への輸出も、台湾、シンガポール、ドバイなどに柿や桃の販売を行っています。

農産物流通センター 

平成22年9月からJA紀の里で黄色いキャンペーンカーを導入しました。紀の川市産農産物の「味と心」を消費者の皆様に直接届けるべく全国を走り回っています。皆さんの町で黄色いトラックを見かけたら、ぜひお立ち寄りください。

黄色いキャンペーンカー

第3が、紀の川市ブランドの確立に向けた取組です。
紀の川市の農業の素晴らしさに市民が誇りをもってもらうとともに市外にも情報発信をしていくためのツールとして、平成20年紀の川市特産の果物のキャラクター「紀の川ぷるぷる娘」が誕生しました。

紀の川ぷるぷる娘

6人の姉妹で、それぞれ、じくぷる(いちじく)、さくぷる(はっさく)、ももぷる(桃)、かきぷる(柿)、きうぷる(キウイフルーツ)、いちごっぷる(いちご)という名前ももっています。紀の川市特産の果物のみずみずしさを表しているということで、全国3,457件の応募の中からこの名前が選ばれました。紀の川市ブランドの確立に向けて、このキャラクターを大いに活用していきたいと考えています。
なお、食育と農産物の販売強化を進めるために、『紀の川ぷるぷる娘の歌』という歌をつくりました。第7章で詳しく紹介していますので、ご覧ください。付属のCDでも歌をお楽しみいただけます。

(5)食育のまちづくり
紀の川市の「食」を考えたとき、1年中果物が何でもとれる恵まれた農業、地産地消の拠点である「めっけもん広場」、地場野菜を中心とした健康バイキングを提供している「青洲の里」など、食育に関わる豊富な素材があります。

教育分野においても、市内の小中学校で、地元の農家と連携した給食づくりを展開するなど先進的な取組が見られます。
このため、紀の川市では、平成20年9月、農業の振興や地産地消をベースとした紀の川市食育推進計画を策定しました。
計画策定とあわせ、平成20年2月より、紀の川市食育フェアをはじめました。平成23年2月で四回目を迎えますが、食育の啓発や料理体験、シンポジウムの開催など、毎年、内容の充実が図られています。
食育推進計画と食育フェアについては、第3章で詳しく紹介していますので、ご覧ください。

平成21年度には、国の助成事業「地方の元気再生事業」に取り組みました。
紀の川市が医聖・華岡青洲の生誕地であることを踏まえ、医・食・観光の連携による「食育のまちづくり」をメインテーマとして、次の3つの取組を進めました。

第1は、食育のまち推進事業です。地場農産物を中心とした「食育メニュー」の開発のほか、米粉をつかった食育創作料理コンテストの開催、食育研修会を行いました。

第2は、食育のまち啓発普及事業です。小中学校や保育所での食育に関する教育素材(カルタ・紙芝居・DVD)の開発や食育に関するシンポジウムを開催しました。

第3は、食育のまち宿泊体験交流事業です。和歌山大学観光学部と連携して、食育や健康にこだわった宿泊体験プログラムの開発や農家の語り部研修などを実施しました。

事業終了まで、市役所をはじめJA紀の里、(財)青洲の里などの団体に精力的に事業に取り組んでもらった結果、首相官邸ホームページで最高のAAという評価を公表していただくことができました。

地方の元気再生事業については、第4章で詳しく紹介していますので、ご覧ください。
事業仕分けで地方の元気再生事業が廃止となり、次年度の事業につなげることができなかったのは残念ですが、この事業で作成した食育関係のコンテンツは、今後、紀の川市で食育を推進していく上で貴重な財産となりました。

(6)「食育のまち」宣言
平成20年の食育推進計画の策定にはじまり、食育フェアの開催、地方の元気再生事業と、紀の川市の食育の取組は、年々充実が図られてきましたが、平成22年12月、紀の川市議会で「食育のまち 紀の川市」宣言が採択されました。これは、近畿ではじめての「食育のまち」宣言となります。

「食育のまち紀の川市」宣言推進の柱
1 食事はおいしく、楽しみながらとりましょう。
2 生活リズムを整え、バランスのとれた食生活習慣に心がけましょう。
3 食の安全に対する知識を身につけましょう。
4 紀の川市でとれた食材を活用しましょう。
5 食育への関心を深めましょう。

また、平成22年度から24年度まで、和歌山県の「わがまち元気プロジェクト」事業の採択を受け、紀の川市の食育を観光や加工などの産業化に結びつけていく予定です。

紀の川市の食育の取組
H20 食育フェア、紀の川市食育推進計画
H21 地方の元気再生事業
H22 「食育のまち」宣言
H22~24 「わがまち元気プロジェクト」

「食育のまち」宣言と「わがまち元気プロジェクト」については、第5章で詳しく紹介していますので、ご覧ください。
「食育」をキーワードにしたこれからの紀の川市のまちづくりの展開にご期待ください。