本日は、那賀広域森林組合の皆さんにお話させていただく機会をいただき、大変ありがたく感じています。
紀の川市に赴任してから、龍門山や和泉葛城山、ハイランドパーク粉河、細野、鞆淵など紀の川市の山林を何度となく歩かせていただきました。
そのたびに、紀の川市のふところの深さといってもいいでしょうか、「こんなに素晴らしいところが紀の川市にあったのか」という感慨をもちます。
地球温暖化問題が顕在化する中で、森林のもつ価値が全世界的に見直されつつあります。
紀の川市の森林は、市の面積の半分約1万ヘクタールありますので、この森林の価値をどうとらえていくのかは、紀の川市自体の価値を見直すことにもつながります。
本日は、紀の川市の森林のもつ価値について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
◆紀の川市の森林の現状
紀の川市の森林の人工林率は約50%、スギ、ヒノキが大半を占めます。9~10齢級(45~50年生)の伐採の適期にきている林分(森林を管理するまとまった区画)も多いのですが、最近の材木価格の低迷や林業労働力の高齢化などを背景に、間伐などが行われず荒れている森林が増えているのが現状です。和歌山県のスギ山元立木(やまもとりゅうぼく)価格が昭和50年の23,917円から平成20年の2,702円と35年前の約1割にまで落ち込んでしまったことから考えれば仕方がないことかもしれません。
しかし、森林は薪などの燃料や材木の供給源としてだけでなく、国土の保全や水源のかん養等のほか二酸化炭素の吸収源としての役割も果たしていますので、その適正な管理が必要です。
◆紀の川市の森林の価値とは?
ところで、紀の川市の森林の価値を試算してみるとどれぐらいの金額になると思われますか?
和歌山県の森林の公益的機能の評価額は、1兆359億円/年と試算されています(県林業振興課、平成19年)。水源かん養機能や土砂流出防止機能などの機能の評価額を単純に合計した値です。
県全体の森林面積のうち紀の川市の森林が占める割合は約3%ですので、紀の川市の森林の評価額は310億円/年という試算結果となります。
紀の川市の農業生産高が年間161億円ですから、その倍の価値が森林の公益的機能にはあるということですね。
ただ、間伐などがされていない森林が増えている紀の川市の現状から見れば、このまま放置すれば、その価値も大きく下がってしまうと考えるべきでしょう。

◆森林の価値の再生に向けての提案
それでは、紀の川市の森林の価値を再生していくためには、どのような取組を進めていくべきなのでしょうか。
私なりに提案をさせていただきます。
第1に、紀の川市の森林の公益性を発揮するための取組を進めていくことです。
幸い、平成19年度から「紀の国森づくり基金活用事業」がはじまりました。県民から一人五百円をいただき県内の森林づくりに充てる事業です。紀の川市でも、この事業をハイキングコースの整備や小中学生の間伐体験活動に活用しています。
また、たとえば、スギやヒノキなど針葉樹の同じ年齢で構成される単層林から、広葉樹と針葉樹が混交する針広混交林、異なる年齢の木で構成される複層林に誘導することによって、より市民に親しみやすい多様な森林を造成することが必要です。
第2に、間伐などを繰り返しながら大径木を生産する長伐期(伐採の時期を標準の2倍=60~70年とする)施業への移行です。
木材価格の低迷で、皆伐方式(一定の範囲の樹木を一時に全部伐採する)で木材を搬出しても、植栽に係る経費を考えれば赤字になるばかりです。コスト意識をもって、作業道開設と高性能な林業機械を組み合わせた間伐材などの生産に取り組むことが必要です。100年先を見通した森林づくりが求められています。

第3に、紀の川市産木材を紀の川市で活用する木材版「地産地消」の推進です。
平成21年の日本の木材自給率は27.8%と、食料自給率40%と比べても低迷しています。木材自給率を向上させていくためには、まずは紀の川市産の木材を紀の川市で活用することからはじめるべきではないでしょうか。
紀の川市で搬出された間伐材は、現在京都の舞鶴の合板会社に持ち込んでいますが、今後、これを市内の道路事業のガードレールや防護柵、バイオマスエネルギーなど幅広い活用の検討が必要です。
せっかく身近な山林に活用可能な間伐材がありますので、みなで知恵をだしあい工夫していく努力が必要です。
◆第62回全国植樹祭に向けて
森林は、現代に生きる私たちだけのものではなく、後世に伝えるべき「緑の社会資本」です。森林の価値をきちんと評価するとともに、林業を「食べていける」よう再生させていくことが重要です。那賀広域森林組合の皆さんには、市内に一四ある財産区と連携して、紀の川市の森林・林業の再生を進めていっていただきたいと思います。
折りしも、今年5月、昭和52年に続いて和歌山県で2回目の全国植樹祭が田辺市で開催されます。
この植樹祭に向けて、県内で森林・緑の啓発普及活動が展開されています。紀の川市でも、この機会に市の面積の半分を占める森林の価値を見直していきたいものですね。
(平成23年1月 那賀広域森林組合事務局講演)