果物王国・紀の川市の農業を支えているのは、何といっても「水」です。
この「水」がどこからきているのか皆さんはご存じですか?
紀の川市の水を育んでいるのは、市内や近隣の山々、紀の川上流域、十津川流域などにある水源林です。そして、水源林からもたらされる水を確保するために、たくさんの水路やため池などがつくられてきました。
徳川頼宣がつくった桜池、大畑才蔵がつくった小田井用水、華岡青洲がつくった垣内池のほか、鞆淵の用水路「ホリキリ」のように、名もない人々によってつくられたものもあります。
『きのかわー人と水の物語―』は、こういった水源林、水路、ため池など「水」に関わる様々な物語を、市内の中学校生徒の副読本としてまとめたものです。
市教育委員会と農林商工部が協力して検討委員会を設置し、中学校の社会科の先生たちに手分けして執筆してもらいました。県立博物館の高木徳郎学芸員(現早稲田大学准教授)にも、時代考証をチェックしていただきました。
この本で、市内の子ども達が、紀の川市で先人たちの残してきた足跡をたどり、その歴史に誇りをもってもらえればと考えています。

紀の川市に赴任してから、農林水産省出身という珍しさもあってか、『かがり火』はじめ様々な紙媒体に投稿させていただきました。また、市内外の様々な会合で講演をさせて頂く機会をいただきました。
本章で取り上げさせていただいた講演会では、かなり無謀な講演内容の設定をしました。たとえば、あら川の桃振興協議会で「あら川」の起源について、青洲友の会で「華岡青洲」について話すなど、専門家に向かって専門の話をしているような感があります。
ただ、私も講演をする前には、旧町の町史を読み込み関連する本も収集するなど、準備にはかなりの時間をかけました。桃源郷や春林軒など講演の題材にする場所には必ず足を運び、実感として「地域」を感じるように努めました。
講演そのものは冷や汗ものでしたが、講演準備を通して紀の川市の歴史や風俗の素晴らしさを学ぶことができました。
何よりも講演会にきていただいた方々と、紀の川市の歴史などについて語り合い、心の深いところで交流ができたと思います。これは、その後の仕事面でも大変貴重な財産となりました。
『きのかわー人と水の物語―』は、こういった紀の川市に残る素晴らしい「宝物」を、紀の川市の子ども達に伝えていかなければいけないという思いで企画させていただいたものです。
「(4)棚田のルーツを探る」で紹介させていただいた『恵みの源』とあわせて、紀の川市の素晴らしさを知るきっかけにしていただければ幸いです。

なお、『きのかわー人と水の物語―』と『恵みの源』の2冊は、農地課の担当職員が、強い熱意をもって編集作業を担当してくれました。彼らの力がなければこれほど良い冊子にはならなかったと、感謝しています。
また、この2冊とも、高木徳郎さんの絶大な支援をいただき完成することができました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。