著者紹介・あとがき

著者紹介

あとがき

平成19年4月、美しい桃の花が咲く季節に紀の川市に赴任した。
この人事を知ったのは、その年の3月半ばのことだった。専門官クラスとしては異例のことながら、人事担当者に連れられて当時の松岡利勝農林水産大臣のところにあいさつに行った。大臣から、

「他省庁など色々と経験しているので田中君を選んだ。農林水産省を代表して、紀の川市のために頑張ってほしい」

と言って握手を求められ、私も応じた。大臣のはにかんだような微笑みと握手の力強さ
が強く印象に残った。
紀の川市に赴任してから、あの日のことを一日たりとも忘れたことはない。自分が紀の川市のために何ができるか、何をするべきなのか、そればかり考えてきた。

幸い、中村愼司紀の川市長をはじめ市役所の素晴らしい人々と一緒に仕事をすることができた。合併後間もない紀の川市の「食育のまちづくり」に携わることができたのは、幸せであったという他ない。
市役所での仕事はいわゆる「タテマエ」は通用しない。日々試行錯誤しながら、市職員のやりがいを引き出し、市民主体のまちづくりを進めることに腐心した。
市議会の役割の重要性も分かった。市議会の後押しがなければ食育のまちづくりは進められなかった。国で大臣答弁などは何回となく下書きしてきたが、市議会本会議で自ら答弁する機会を与えられたのは貴重な経験となった。

この本を企画したのは一年ほど前になる。「食育のまちづくり」を市民や市職員がどのような想いで進めてきたのか書き残しておく必要があると考えたからだ。それ以来、余暇の時間のほとんどを執筆に充てた。まちづくりのキーマンへのインタビューを企画して、現場の生の声を伝えるようこころがけた。CDも添付し『紀の川のほとりで』『紀の川ぷるぷる娘の歌』など紀の川市でつくってきた歌も紹介することにした。
私は「地域」をテーマにした歌づくりをライフワークにしている。これらの歌が紀の川市で歌い継がれていくようになれば、これ以上の喜びはない。

紀の川市は素晴らしい市だと改めて思う。紀の川など豊かな自然、美味しい農産物、深い歴史文化、そして何よりも素晴らしい「人」。紀の川市民には、その価値をもっと評価してほしいと思う。そして、市外の人たちにも、紀の川市の魅力を知ってほしい。
紀の川市について再発見する手がかりとして、この本を活用してもらえると嬉しい。

紀の川市に赴任して4年がたとうとしている。尊敬していた松岡大臣の負託に自分は応えることができたのか。この本を書いたのは、大臣に報告することがかなわなくなった現在、改めて自分に問いかけてみたいという想いもあった。
紀の川市では妻の仕事の関係上単身赴任となった。5歳と1歳だった子どもたちは9歳と5歳になった。妻と妻の両親には大変苦労をかけた。心から感謝している。ただ、休日には、都会育ちの子どもたちも紀の川市の自然を満喫し、忘れがたい思い出をつくることができた。
紀の川市での4年間は、自分が生涯大切にしなければならない「宝物」だ。そして、紀の川市との本当のおつきあいはこれからだと思う。紀の川市の応援団の一人として微力ながら「恩返し」をしていきたい。

紀の川市でお世話になったすべての方々に、「ありがとうございました」の気持ちをお伝えして筆を置きたい。

平成23年3月

新しい桃の芽吹きを感じながら
田中 卓二

主要参考文献

奥付