第3章 紀の川市食育推進計画

紀の川市食育推進計画「たのしい、おいしい『食』を育む きのかわ市」は、平成20年9月に策定されました。

コンサルタントに頼らずオリジナルな内容を追求した結果、50ページに及ぶ大部なものになってしまいました。

担当職員のがんばりと市食育推進会議の方々の的確な指導もあって、市民・市職員手づくりのいいものができたのではないかと自負しています。

この章では、この計画の策定の経緯や内容について述べたいと思います。

(1)なぜ計画が必要か
食育基本法では、国民運動として食育を進めることが定められています。

このため、国や都道府県だけでなく、市町村レベルでも食育を推進する計画を策定するよう努めることが法律で求められています。

市町村は、地域住民に一番身近に接することができる立場ですので、食育を市民1人ひとりに浸透していく上で重要な役割を担っています。また、地域で食育の推進のために活動している様々な主体と連携していくコーディネーターとしての役割も期待されています。

市町村単位で、地域の特性を活かした食育の施策の立案・実施を図っていくことも重要です。

また、地域住民や様々な活動主体とともに「なぜ食育の推進が必要なのか」という理由を明らかにし、目的を共有することも、計画づくりの中で可能となります。

食育基本法で計画を策定することが求められているからという半ば「義務」のように考えるのではなく、市町村自ら、なぜ食育の推進が必要なのか主体的に考えていく姿勢が大切といえるでしょう。

紀の川市でも、計画づくりを通じて市民と市職員の食育に対する意識が飛躍的に高まりました。その後の地方の元気再生事業、「食育のまち」宣言なども、計画をつくったからこそできたと言えます。

紀の川市食育推進計画(目次)
第1章 計画策定にあたって
第2章 紀の川市の食を取り巻く現状と課題
第3章 食育推進のための基本方針
第4章 基本的施策の方向性
第5章 ライフステージに応じた食育の取組

市町村食育推進計画づくりを、食育やまちづくりの第一歩ととらえて、「まず行動してみる」ことが必要なのではないでしょうか。

(2)計画を策定するきっかけ
計画を策定するきっかけは、平成19年6月の市議会での一般質問でした。

紀の川市は、農業が基幹産業であるとともに、食育の取組も盛んに行われているので、紀の川市独自の食育推進計画を策定すべきではないかというものでした。

その年の4月に赴任したばかりの私は、まず、担当者に相談し「計画策定を検討する」旨の答弁をすることにしました。

紀の川市は、豊富に野菜・果物がとれる県下1位の農業が展開されています。JA紀の里「めっけもん広場」や「青洲の里」の健康バイキング、地元の農家と連携した小中学校の給食など、積極的に食育が進められています。

これらの取組を有機的に結びつけ、「食育のまち」としてブランド化していくことは、今後の紀の川市の将来を見据えた場合、大変重要なのではと考えました。

市議会で「検討する」と答弁したからには、紀の川市の執行部としても計画の策定を検討せざるを得ません。
私は、この市議会答弁をチャンスととらえて、計画策定を進めていこうと考えました。

しかしながら、過去の市議会答弁をひもとくと、私の赴任以前にも市議会で計画策定を前向きに検討することを表明していたことがわかりました。なぜ、計画の策定作業が進まなかったのでしょうか。

その原因は、「食育」というテーマが、農林商工部、保健福祉部、教育部と三部にまたがっていて、どこの部が中心になって検討するか定まっていなかったことでした。

たとえば、農業振興地域整備計画については、農林商工部で策定することは当然ですし、法律上も計画策定が義務づけられています。

一方、食育推進計画については、農林商工部、保健福祉部、教育部のどの部が中心になって策定してもおかしくないし、法律上も、計画策定を努力しなさいという「努力義務」にとどまっています。

それぞれの立場で必要性は認識していたものの、計画策定のためには多大な労力がかかります。市合併後の膨大な事務作業をかかえる中で市役所の各部が二の足を踏んでいたのは、仕方のないことだったのかもしれません。

私は、まず、農林商工部の担当者に次のようにお願いしました。

①市議会答弁も踏まえ、紀の川市で食育推進計画の策定が必要であること
②計画を策定するためには、各部の連携が欠かせないこと
③紀の川市は農業を基幹産業とする市であるので、事務的には農林商工部を中心とした体制で計画策定を行いたいこと

幸い、担当者も、計画策定の事務を快く引き受けてくれたので、次のステップに進むことができました。

次は、保健福祉部、教育部など関係する部の部長さん方に、計画策定のための体制づくりを相談しました。

事務的な取りまとめは農林商工部で引き受けるにしても、各部の担当者に相当の負担をかけてしまいます。幸い、快く部長さんたちも体制づくりを引き受けてくれました。

各部横断的な根回しをすませた上で、市長・副市長に計画づくりを進めることを相談し、承認をいただくことができました。

最近、市町村の食育関係の担当者会議に呼ばれることが多くなりました。市町村食育推進計画づくりを進めるにはどうすればいいかという相談にのるためです。

計画策定の進まない市町村の実情を聞いてみると、ほとんどの場合、関係する部の消極的権限争いのために策定までいたらないようです。

紀の川市の場合、まず市議会答弁がきっかけとなって、事務レベルで早々に食育推進計画の担当・役割分担を決めたことがよかったようです。

計画策定の体制図

紀の川市では、設置要綱をつくり、市役所内部に次のような体制を整えました。

〇紀の川市食育推進本部(副市長を本部長として関係部長等で構成)
〇紀の川市食育推進本部幹事会(私を幹事長として関係課長等で構成)
〇紀の川市食育推進本部幹事会ワーキングチーム(関係課の担当者で構成)

実際の事務的な打合せは、ワーキングチームを通じて行い、関係部の合意を得ることに腐心しました。私も必要に応じ、関係部の部長や市長・副市長に内容を相談しました。

このワーキングチームを中心とした計画づくりによって、関係部の担当職員をはじめ、保健師さんや栄養士さんの意見も効率よく集約することができました。結果的に、いい形の体制だったのではないかと考えています。

(3)紀の川市食育推進会議
食育基本法によれば、市町村食育推進計画は、

①「市町村」自らつくるもの
②「市町村食育推進会議」がつくるもの

といった2つのパターンが選択できることになっています。

市町村自ら計画を作る場合は、市の行政レベルでの話し合いで計画を作成することが可能です。

一方、市町村食育推進会議は、市町村食育推進計画の作成及びその推進のために設置するとされていて、会議の設置や運営については、市町村の条例で定めなければなりません。

手続き的には市町村自ら計画をつくるほうが楽なのですが、紀の川市では、紀の川市食育推進会議を設置することにしました。

というのは、市の行政レベルだけで計画を作成しても、情報が一方通行となりがちで、市民運動として食育を展開していくのは難しいと考えたからです。

また、計画策定のきっかけが、市議会からの質問だったこともあります。

市議会に対して、会議の設置に関する条例を提案することを通じて、市議会議員にも食育の重要性を認識していただけるのではと考えました。

平成19年9月の定例市議会で市食育推進会議の設置条例を可決いただき、これを受けて、11月に第1回の紀の川市食育推進会議を開催しました。

会議のメンバーは、食育に関し優れた識見を有する者のうちから、市長が委嘱することとなっています。

JA紀の里や農業士会などの農業団体、食生活改善推進協議会などの保健福祉団体、小中学校校長会・PTA連合会などの教育団体、生活学校などの消費者団体などの長に加え、県振興局部長や紀の川市の副市長・教育長などの行政関係者にもメンバーになっていただきました。

紀の川市の食育に関する主だった団体が会議に参加いただくことによって、会議自体が市民運動として食育を推進するための原動力になったのではないかと考えています。

紀の川市食育推進会議の会長には、社会教育委員会委員長で栄養士でもある三國和美さん、副会長には紀の川市環境保全型農業グループ会長の畑敏之さんが委員の互選により選ばれました。

お二人とも、食育に関して熱い想いをお持ちの方です。お二人の存在が、紀の川市の食育を推進していく上で大変大きな力になったと、今でも感謝しています。

(4)計画の策定に向けて
計画を策定する体制が整ったところで、次の行動に移りました。①徹底した情報収集と、②策定すべき計画の方向性の明確化です。

①徹底した情報収集
情報収集に関しては、まずインターネット経由での資料収集を行いました。

すでに市町村食育推進計画を策定している市のホームページから簡単にPDFで計画のダウンロードが可能です。
農林水産省や内閣府のホームージも大変参考になりました。

食育活動の事例をデータベースで簡単に検索できる『ニッポン食育ネット』も見ていて飽きることがありません。

和歌山県の食育関係のホームページも、地域の食材の活用を勉強するという点で大変参考になりました。

ダウンロードした資料をプリントアウトしてしまうとコストもかかりますし保管場所も問題になるので、できる限りハードディスクで保管して活用しました。

食育関係の書籍についても、広範囲に収集しました。(社)農山漁村文化協会の出版している書籍は、参考になるものがたくさんあります。

特に、平成18年から発行されている『食育活動』シリーズは、行政・学者・市民運動家など様々な方々が、分かりやすく食育について書いているので、重宝しました。

例えば、『食育活動』vol・1にある県立福岡女子大学早渕仁美教授の「『食事バランスガイド』活用術」は、全国各地で行われた説明会での質問を基にQ&A方式で記述されていて、面白くかつ分かり易い記事となっています。

食事バランスガイドでは、コマの上の人は左回り(反時計回り)で走っています。一目見ただけでは何のために走っているのか分かりませんでしたが、「人が運動をすることでコマのバランスをとっている」という解説を読み、納得することができました。

食事バランスガイドのコマ

また、コマの紐(ひも)が、菓子や嗜好飲料を表しているのは、ご存じでしたか?

菓子や嗜好飲料は、毎日必ず摂らなければならないものではありません。このため、菓子や嗜好飲料をコマ本体とはせず紐として表現することにしたそうです。コマが倒れない程度に楽しく適度に摂ることにより、コマが安定して廻り続けることができるというわけです。

食育の担当部署に実際に出向いての資料収集も積極的に行いました。

和歌山県庁や和歌山農政事務所に行くのは当然ですが、京都にある近畿農政局や東京の農林水産省、さらには、内閣府食育推進室にも出向き、食育関係の担当者と会って意見交換をさせていただきました。

最近は国の役所も警備が厳しくなりましたが、事前に電話で趣旨を説明してアポイントをとっておけば、国の担当者も親切に対応していただけることが分かり嬉しかったのを覚えています。

日本全国の基礎的なデータ収集・分析と並行して、紀の川市内の食育に関するデータも精力的に収集しました。
紀の川市役所のワーキングチームで議論を重ね、市民に対してアンケートを行うことにしたのです。

小中学校に対しては、市の校長会に相談した上で、市内の小学校4年生児童と中学校3年生生徒と保護者、市内保育所の年長児保護者全員にアンケートを実施しました。

産業まつりの来場者や公民館講座等の受講者など、一般市民に対しても、アンケートをお願いしました。

産業まつり

私が正直「すごいな」と思ったのは、ワーキングチームの女性陣が、この2,000名以上にも及ぶアンケートの集計をさほど時間もかけずに済ませてしまったことです。

ある女性職員は、小さな子供を抱えて子育てと仕事との両立に悩んでいたらしいのですが、自らの子供の教育にもつながる「食育」というテーマに出会い、こういった作業がほとんど苦にならなかったと言ってくれました。コンサルタントに頼らずに、充実した内容の食育推進計画を策定できたのは、彼ら・彼女らの頑張りがあったからと本当に感謝しています。

②計画の方向性の明確化
策定すべき計画の方向性の明確化については、次のような一枚紙を作成し、関係者に説明してまわりました。

【紀の川市食育推進計画策定に向けた基本的考え方】
〇紀の川市食育推進会議を核として、紀の川市、農業団体、消費者団体等が連携して計画策定に取り組む

〇国の食育推進基本計画や和歌山県の『食べて元気、わかやま食育推進プランー和歌山県食育推進計画―』等との整合性に留意する

〇紀の川市の次のような特徴に留意して、全国に誇れるようなオリジナルの計画策定を目指す。

①紀の川市は、和歌山県下第一の農業生産を誇る市であり、地元農産物を地元で消費する「地産地消」を推進すること

②紀の川市は、環境に優しい安全・安心な農産物生産に積極的に取り組んでおり、環境保全型農業を一層進めること

③紀の川市は、学校給食において地場産品を使用する等モデル的な取組を進めており、学校教育において「食育」を積極的に進めていくこと

④紀の川市は、食生活改善推進活動等地域においても食育に取り組んでおり、地域や家庭における「食育」を積極的に進めていくこと

⑤健康バイキング等の推進により、青洲の里を「食育の拠点」として位置づけていくこと

紀の川市は、農業を基幹産業とする果物王国です。農業に根ざした食育を推進することを基本にすえれば、全国のモデルとなる計画を策定できるのではないかと考えました。

(5)計画策定まで
計画を策定するまでに、市食育推進会議を4回開催し、議論を重ねていただきました。

食育推進会議の合間をぬって、食育推進本部を三回、幹事会を九回開催しました。ワーキングチームに至っては、頻繁に開催していたので何回開催したか把握できないほどです。

女性職員を中心としたワーキングチームでアンケート調査結果の集計などを行い、三國会長と畑副会長に相談するという流れで計画策定作業を進めました。

会議のメンバーには、活発に意見をだしていただきました。計画のタイトルを決定する際には、多数決をとったほどです。
会議で出た意見をいくつかご紹介します。

「大根を食べないと大根畑が消えていく。消費者と農家をつなぐ体験農業の大切さをしっかり書いてほしい。」
「赤ちゃんからご老人まで世代によって『食』の位置づけは変わってくる。世代別の食育を丁寧に書いてほしい。」
「学校給食法に『食育』が位置づけられた。市内の小中学校で積極的に取り組んでいる食育活動をとりあげてほしい。」

このように、市民の代表である市食育推進会議と市職員が一緒になって、紀の川市の食育はどうあるべきか議論を重ねていくことによって、オリジナリティあふれる計画ができあがったと考えています。

(6)計画の内容
ここで、紀の川市食育推進計画の内容について簡単に紹介します。

第1章 計画策定にあたって
第1章では、紀の川市食育推進計画の策定の趣旨、位置づけ、計画の期間、計画の進行管理と評価について記述しています。

計画の趣旨については、食をめぐる様々な問題が生じていることをふまえて、「市民運動として食育を推進」していくことの大切さを述べています。

計画の位置づけについては、この計画が食育基本法に基づくことを明らかにするとともに、紀の川市の特色を活かして、既存の計画との調和を図ることを示しました。紀の川市には、主な関連施策だけでも『第一次紀の川市長期総合計画』や『紀の川市次世代育成行動支援計画』があります。それぞれの計画としっかりとした連携を図ることを明記しました。
計画の期間は、平成20年度から24年度までの5年間としました。

市の他の計画との整合性を考慮するとともに、国の食育推進基本計画(平成18年~22年度)や和歌山県食育推進計画(平成19年~23年度)も五年間であることも参考にしました。

計画の進行管理と評価については、市食育推進本部が行い、毎年度、市食育推進会議に報告するものとしました。また、社会情勢の変化等により見直しが必要になった場合には、随時見直しを行うことにしました。

第2章 紀の川市の食を取り巻く現状と課題
第2章では、食生活と健康、農産物の生産状況、地産地消、農業体験、伝統的食文化の伝承、食の安全・安心について記述しています。

食生活については、アンケート調査を通じて紀の川市民の食生活が必ずしも理想的なものではないことが分かりました。例えば、紀の川市の男性の朝食欠食率は、一五%にものぼっています。

健康面でも、紀の川市民は必ずしもいい状態ではありません。市民の基本検診の状況として何らかの検査異常のある人は受診者の86%にものぼっています。

検査項目別で見ても、肥満(BMI25以上)や中性脂肪の異常値を示している割合が20%程度となっていて、総コレステロール値の高い人にいたっては50%にせまる勢いです。

農産物の生産状況については、世帯購入数量充足率がほとんどの野菜・果物で100%をこえている状況を示しています。この率は市内の農産物生産量を市内の消費量で割った数値のことです。100%をこえるということは、(季節的な生産量の増減を勘案しなければ)理論上ほとんどの品目で自給が可能であることを示しています。

地産地消については、その意味を知っている市民の割合は40%にとどまっていますので、その啓発普及が欠かせません。

農業体験については、教育ファームの概念を提示し、その推進を図ることを明確にしています。
教育ファームは、生産者の指導の下で「種まきから収穫まで」一連の農作業体験の機会を提供する取組です。体験者が自然の恩恵に感謝し、食に関する活動への理解を深めることを目的としています。

教育ファーム

伝統的食文化の伝承については、地元農産物を使用した伝統的な郷土料理を伝承していくことの重要性を述べています。紀の川市にも、茶がゆ・じゃこ寿司などの郷土料理があり、次世代に伝承していく必要があります。

食の安全・安心については、食品の安全性に関する基礎的な知識を十分にもっている市民の割合が男性16%、女性23%と低い数字になっています。紀の川市民に食の安全・安心についてもっと関心をもってもらうことが必要です。

第3章 食育推進のための基本方針
第3章では、食育の重点目標と食育推進の目標数値について示しています。
食育の重点目標として、以下の5つを定めています。

1.食事はおいしく、楽しみながらとりましょう。
家族や仲間とともに食卓を囲み、おいしく楽しみながら食事することは、食育の基本です。

2.生活リズムを整え、バランスのとれた食生活習慣に心がけましょう。
規則正しい生活リズムに心がけ、バランスのとれた食生活習慣を実践することで生活習慣病を予防することができます。

3.食の安全に対する知識を身につけましょう。
食品表示等についての知識と理解を深めることが大切です。

4.紀の川市でとれた食材を活用しましょう。
安全・安心な食生活を実現するため、地元でとれた食材を活用し、また、生産者と消費者の交流を図ることが大切です。

5.食育への関心を深めましょう
食への関心を深め、健康を守る力を身につけることが大切です。

計画の数値目標については、合計18項目の目標値を設定しました。

計画づくりにおいて、数値目標の設定は大変重要です。

「5年後紀の川市の食育がどのような姿になっていてほしいか」ということを基本に、ワーキングチームでわいわいがやがやと話し合い、市食育推進会議に諮った上で目標値をつくっていきました。国や県に準じて目標値を設定するだけでなく紀の川市オリジナルの目標値も意欲的に設定しました。

以下に主な数値目標を紹介します。
なお、紀の川市の現状値ー目標値は、平成19―24年度です。一方、国は、平成17―22年度、和歌山県は平成18―23年度となっていて、国・県・市で1年ずつ設定年度がずれていますのでご注意ください。

(国・県で設定されている目標)
①食育に関心を持っている市民の割合
82.9%→90%
69.8%→90%以上(※国)
85.7%→90%以上(※県)

紀の川市民の食育への関心度は総じて高いと言えます。紀の川市の目標値は、国・県と同様に90%としました。

②子どもの欠食率
小学生 3.1%→0%
小学生 4.1%→0%(※国)
小学生 8.9%→0%(※県)

紀の川市の小学生の朝食欠食率は、国・県に比べて少ないといえます。紀の川市の目標は国・県に準じて0%としました。

③学校給食における地場農産物を使用する割合(品目ベース)

(穀類・野菜類・果実類)
24.5%→35%
21.2%→30%以上(※国)
32.0%→40%(※県)

紀の川市の現状値24.5%は意外と低いと感じられるかもしれません。旧町単位で取組の進んでいるところといないところのアンバランスがあり、平均するとこの数値になるようです。

市としては、JA紀の里や紀の川市環境保全型農業グループとも連携しながら、地元産農産物の使用割合を増やしていくことを明確にするため、35%という目標を掲げました。

(県単独で設定されている目標)

④学校給食の実施率(小学校)
94.4%→100%
90.3%→100%(※県)

紀の川市では、旧町当時から学校給食の実施に積極的に取り組んでいて、すでに中学校では100%実施しています。
小学校では、田中小学校高野分校で未実施のため、100%に達していませんでしたが、県とあわせて100%達成を目指しています。

(紀の川市オリジナルの目標)
紀の川市オリジナルの目標は、ワーキングチームの女性陣を中心に様々な知恵を出し合って意欲的な目標をつくりました。
家族と食事を楽しむ割合や子どもと農業体験をする市民の割合を指標にするなど、家族を大切する作成者の気持ちがにじみでています。

A~Cまで3つのタイプの指標について、説明します。

タイプA 主に食生活に関するもの

⑤家族の誰かと食事を楽しむ市民の割合

81.7%→90%

⑥三食規則正しく食べる市民の割合

68.4%→80%

紀の川市民の食生活に関する意識は、現状でも高いと言えますが、それぞれ10%程度引き上げることを目標としました。

 

タイプB 農作業体験や料理に関するもの

⑦農作業体験をしたことがある子どもの割合

88.2%→95%

⑧子どもと一緒に農作業体験をしたことがある市民の割合

49.4%→70%

⑨家族や地域の人と一緒に料理をすることがある子どもの割合

50.6%→70%

家族一緒に農作業体験や料理をすることは食育の基本です。そういった市民が増えることを目標に掲げました。

 

タイプC 紀の川市産の農産物に関するもの

⑩紀の川市内産の農作物をよく利用する割合

67.2%→90%

⑪紀の川市が誇る農産物を周知している市民の割合

17.4%→50%

紀の川市産農産物の利用についての現状値は高めですが、紀の川市が誇る農作物(いちじく・はっさくが全国1位の産出額であること)を周知している市民の割合は少なく、より高めていく必要があると考えました。

それぞれ、目標としてユニークで、かつ、数値を高めていったほうがいいものばかりだと思います。平成24年に行うアンケート調査でどんな結果がでてくるのか、今から楽しみです。

紀の川市オリジナルの目標
タイプA 主に食生活に関するもの
タイプB 農作業体験や料理に関するもの
タイプC 紀の川市産の農産物に関するもの

 

第4章 基本的施策の方向性
基本的施策の方向性では、家庭、保育所・幼稚園・学校、地域における食育の推進と紀の川市の農業に根ざした食育の推進について記述しています。

①家庭における食育の推進
家庭においては、子どもの頃から「正しい食習慣・生活習慣」を身につけることが大切です。家族とのふれあいの中で、食べることの楽しさやマナーを学ぶことができます。食材に触れ、家族で一緒に調理をしたり実際に体験することで食に対しての興味もわいてきます。

また、食習慣の改善によって、生活習慣病の予防に取り組むことが必要です。栄養バランスに優れた「日本型食生活」に取り組むことも大切です。

②保育所・幼稚園・学校における食育の推進
保育所・幼稚園は、子どもがはじめて集団生活を営む場ですので、食育の基本を教える必要があります。
たとえば、いただきます・ごちそうさまなどの食事のあいさつや手洗いの習慣など規則正しい生活リズムを身につけることが重要です。

小中学校では、地元の豊富な農産物と、生産者の顔が見える紀の川市の環境を活かすことが重要です。「食」について考え、自ら「食」を選択する能力を身につけるための学習指導に取り組みます。特に、地元食材を使った学校給食を「生きた教材」として活用します。

③地域における食育の推進
地域における食育の推進に当たっては、地域のボランティアと連携していきます。

市民の自主的な学習活動のリーダーである「生涯学習メントル」による親子料理教室・郷土料理体験、食生活改善推進員による「子ども料理教室」・「男性料理教室」、紀の川市生活研究グループによる食育体験交流など、様々な取組を進めます。

食事バランスガイドを活用した食生活を進め、紀の川市の郷土料理を次世代に伝えていくことも重要です。

食育に関する関係機関相互の協力によって、市民運動としての食育を進めていきます。

④紀の川市の農業に根ざした食育の推進
紀の川市は、農産物豊かな環境に恵まれていますので、市民に対して広く「食の安全・安心」を身近な視点でPRすることが可能です。

めっけもん広場をはじめとする直売所を通じた地産地消や、農業体験学習など幅広い取組が可能となります。

このような紀の川市の農業に根ざした食育を推進することによって、市民への食育の啓発普及だけでなく、市外の消費者等との交流を通じた紀の川市の農産物のPRも可能となります。

第5章 ライフステージに応じた食育の取組
紀の川市民の食育の推進に当たっては、市民一人ひとりのライフステージに応じた取組を進めます。
このため、乳幼児期から高齢期までの6つのライフステージに区分して、それぞれのステージの特徴に応じた食育を推進します。

第4章「基本的施策の方向性」が地域などの「面」で分類しているとすれば、こちらは年代という「線」で分類していると言ってもいいかもしれません。

市食育推進会議の三國会長が、ラジオで、

「この計画の最大の特徴は、ライフステージ別に食育の取組を明らかにしたことです」

と言われるほどこの章には力が入っています。

ライフステージに応じた食育の取組
①乳幼児期「親子で食育!」
②小・中学校期「早寝・早起き朝ごはん!」
③高等学校期「身につけよう 選食力!」

④青年期「健康バンザイ!」
⑤壮年期「楽しく運動!」
⑥高齢期「伝えよう 豊かな食を!」

①親子で食育!(乳幼児期))
生涯において著しく成長する時期であり、「食」を営む力や食生活のリズムの基礎を身につける重要な時期です。

家庭を中心に、楽しい雰囲気での食事に心がけ、さまざまな食品に親しみ、「食」に関する五感(味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚)を磨くための経験をしていくことが重要です。また、よく遊び、よく眠り、食事を楽しむ生活リズムを身につけることも必要です。

②早寝・早起き・朝ごはん!(小・中学校期)
日常の生活リズムや基礎的な食習慣を身につけ、食の基本的な知識や食行動を習得する重要な時期です。

早寝・早起き・朝ごはんによる望ましい生活習慣を形成するとともに、自らの「食」について考える機会を得て、「食」に関する様々な知識と「食」を選択する判断力を身につけることが大切です。農作業体験を通じて命を大切にする心、食に対する感謝の気持ちを育む時期でもあります。

③身につけよう 選食力!(高等学校期)
食習慣・生活習慣が定着する中で、外食の機会も増えるなど食を取り巻く環境が大きく変化します。また、外見へのこだわりから過度の痩身志向など栄養摂取のバランスが崩れやすい時期です。

食に関する知識や経験を深め安全で健康的な食べ物を選ぶ「選食力」を身につけることが必要です。また、受験期、クラブ活動等エネルギー消費の激しい時期には、特に栄養管理や体調管理を心がけ、自らの健康管理ができる力を身につけます。

④健康バンザイ!(青年期)
就職や結婚、出産、子育て等により生活が大きく変化する時期です。大学生や社会人となり一人暮らしも増える中で、生活リズムや基本的な食生活が乱れやすくなる時期です。

食生活を見直し、食に関する様々な情報を得るとともに調理技術や食を正しく選択・判断する力を身につける必要があります。また、定期的に健康診断を受け、自らの健康状態を把握するとともに適切な食生活・運動週間を心がけて、生活習慣病の予防に努める必要があります。

⑤楽しく運動!(壮年期)
年々基礎代謝量と活動量が低下し、生活習慣病を発症する危険性が高くなる時期です。

食に関する知識や経験をふまえて、適度な運動を取り入れながら健康的な食生活を実践します。自らの健康を守るため、調理技術や健康・栄養についての積極的な学習も必要となります。

⑥伝えよう 豊かな食を!(高齢期)
定年による退職など、生活環境が変化し、身体的には体力の低下が著しい時期です。

栄養バランスのとれた食事に心がけ、健康状態や活動の程度に合わせた食生活を実践します。また、食に関わる豊富な知識と経験を家族や地域に伝承していきます。

(7)パブリックコメント
紀の川市食育推進計画のパブリックコメント(意見募集)は、平成20年6月から約一ヶ月間行いました。

その結果、市内外から有意義な意見を13件いただくことができました。

パブリックコメントへの対応については、論点を整理した上で市食育推進会議に諮り、必要な修正を行いました。

第5章の幼児期、小・中学校期の取組の中で、「いただきます・ごちそうさま」といった食事のあいさつの重要性を明記したのもパブリックコメントによる指摘をいただいた成果です。

パブリックコメントを行うメリットは情報公開の徹底という面もありますが、幅広く様々な方々のアドバイスをいただくことができるという肯定的な面が大きいと思います。

パブリッククコメントを実施した結果、当初案よりも、より良い内容の計画になったと考えています。

(8)食育フェアの開催とこれから
計画を策定とあわせて、紀の川市の食育を推進する上で大きな成果としてあげられるのが、平成20年からの「紀の川市食育フェア」の開催です。紀の川市食育推進会議の主催ではじめることになりました。

フェアの内容は、市の食育に関わる団体が展示等を行い、食育の推進、啓発普及を行うものです。シンポジウム等も同時に開催し、広く市民参加してもらえるフェアとなっています。

紀の川市食育フェアは、平成23年2月で4回目となりますが、毎回大変多くの方々の参加をいただいています。

今後、継続的にこの食育フェアを開催していくのとあわせて、今後、紀の川市の農産物や食育の取組をPRする観点から、市外での食育フェアの開催も検討していきたいと考えています。

紀の川市食育フェア

紀の川市食育推進計画は、市職員の熱意と市民代表である市食育推進会議のメンバーが力をあわせた結果、他市に負けない立派なものとなったと自負しています。

計画のタイトルにもこだわり、食育推進会議で多数決の結果、「たのしい、おいしい『食』を育む きのかわ市」という親しみやすいものとなりました。表紙の写真も、皆で議論しながら決めました。

計画を策定して以降、地方の元気再生事業や「食育のまち」宣言など食育のまちづくりを進めてきましたが、その基礎となるのは、やはりこの「紀の川市食育推進計画」だと考えています。

もちろん、この計画の成否は、市民一人ひとりの、日々の食育の実践にかかっています。今後も、市民一体となった取組となるよう、市あげて食育の推進につとめていく必要があるでしょう。

紀の川市食育推進計画「たのしい、おいしい『食』を育む きのかわ市」は、ホームページで公開しているほか付属CDにPDFを添付していますので、ぜひご覧ください。

紀の川市食育推進計画

なお、この計画の策定に関わった女性職員から、「この計画は私の宝物です」というメールを頂きました。これは、今回の仕事の大きな成果ではないかと考えています。彼女から頂いたメールは、私にとっても「宝物」です。