第4章 地方の元気再生事業

平成21年度、紀の川市の食育を地域づくりの取組に発展させることを目途として、地方の元気再生事業に取り組みました。テーマは、「食育のまち紀の川市~華岡青洲の生誕地から食育のまちづくりを発信~」というものです。

(1)地方の元気再生事業とは?
地方の元気再生事業は、内閣官房地域活性化統合事務局・内閣府地域活性化推進担当室が行う国費100%の助成事業です。

地方再生の取組を進める上でかぎとなるプロジェクトの立ち上がり段階からソフト分野を中心に集中的に支援を行い、地方の実情に応じた生活の維持や魅力あるまちづくり、産業の活性化に道筋をつけることをねらいとしています。

地方の元気再生事業とは
地域主体の様々な取組を立ち上がり段階から支援する国100%助成のソフト事業。
年度当初に国が公募。
第3者委員会により評価を実施。

年度当初、公募により広く企画の提出を求める「企画競争」が行われます。取組テーマに限定はなく、地域の創意工夫や発想を機転とした自主的な取組を提案することが可能です。

ただ、平成20年度の採択率は一割程度と非常に厳しく、応募者の企画力が強く求められます。

応募主体は、地方公共団体だけでなくNPOや協議会などでも応募することが可能です。

地方の元気再生事業の選定基準は、①複合的な取組、②先導性・モデル性、③持続性のある取組、④相乗効果・波及効果の見込まれる取組、⑤主体的な取組、⑥計画性のある取組といったものです。年度末に第三者委員会による評価が行われ、評価がよければ二年度目の継続実施も可能ということでした。

(2)事業申請のきっかけ
地方の元気再生事業に取り組んだきっかけは、農林水産省の課長から私への一本の電話でした。地域活性化のための国の事業ができたので、紀の川市でも取り組んでみないかというものでした。

通常の補助金と違って、地方の元気再生事業はコンペ方式なので、採択されるか否かは案件の良し悪しにかかってきます。また、仮に採択されたとしても、市職員に大変な事務作業をお願いせざるを得ません。

最初は、私もこの事業に応募するのに逡巡しました。しかし、この事業に取り組むことによって「食育のまちづくり」を強力に進めることができるのではと考えました。

この事業が「省庁横断的な取組」を支援するという点も魅力を感じました。食育というテーマは、本来、文部科学省、厚生労働省、農林水産省といった省庁の枠をこえて取り組まなければならないものです。企画を考える立場からは、省庁の枠を気にせずに取り組めるというのはありがたいことでした。

また、国の100%助成という点についても、財政の厳しい紀の川市にとっては、大変ありがたい話でした。

こういった中、市職員や紀の川市食育推進会議の皆さんと相談しながら、「食育のまちづくり」をテーマとする企画を前向きに検討することにしました。

私が企画を練っていく段階でたてた基本方針は、以下の通りです。

第1が、市食育推進会議をはじめとした市民主体の取組とすることです。
案件形成に当たって、市食育推進会議の皆さんに、「紀の川市の食育の推進には何が必要か」を白紙から議論していただきました。

例えば、三國さんからは紀の川市産の農産物を主につかった食育メニューの開発や食育カルタ・紙芝居の作成について、畑さんからは食のまちづくりで有名な福井県小浜市との交流や食育シンポジウムについて提案がありました。その他、市食育推進会議のメンバーだった栄養教諭からは、学校給食ができるまでを記録するDVD作成について提案がありました。

第2が、様々な主体との連携です。
地方の元気再生事業の実施主体は、紀の川市食育推進会議にお願いすることにしました。

市食育推進会議は、もともとJA紀の里や(財)青洲の里など市内の団体を構成メンバーとしていましたが、平成21年3月、新たに(株)和歌山放送にも参加していただくことになりました。地域を代表するマスメディアが主体的にこの事業に関わることによって、内外への情報発信が的確にできるようになったと考えています。

また、大学との連携を図る観点から、近畿大学生物理工学部や和歌山大学観光学部にも、この事業への参加をお願いすることにしました。

第3が、取組主体の分散化・明確化です。
この事業の取組の先例を調査した際分かったのは、市役所の一部局のみでプロジェクトを推進しようとすると事務作業だけでパンクしてしまうおそれがあるということでした。

事務の軽減を図るためコンサルタントにアウトソーシング(外部委託)してしまうという手もないわけではなかったのですが、せっかく、市食育推進計画策定を市民と市職員の手づくりで進めてきたので、コンサルに全て任せてしまう形態は避けたいと考えました。

このため、JA紀の里、(財)青洲の里、(株)和歌山放送など市役所以外の主体にも、このプロジェクトを推進する役割を担ってもらうことにしました。

市役所の中でも、食育を担当する3部(農林商工部・保健福祉部・教育部)で事務局を分散することにしました。また、市食育推進会議のメンバーにも担当制をしいて、それぞれ責任を持つ方式をとりました。

この割り振りを市の内部で協議する段階で、忘れ得ぬ場面があります。

食育推進のための教育素材の開発(紙芝居・カルタ・DVD)について、どのような役割分担とするか3部の部長で協議していたとき、当時の教育部長の松原優さんが、

「DVDについては教育部でうけもちましょう。紙芝居とカルタは、保健福祉部でうけもてばいいのではないか。」

と率先して言ってくれたのです。

保健福祉部長もこの方針に賛同してくれたので、一気に市役所内部で役割分担ができることとなりました。
実は、この仕事の割り振りが一番神経を使う部分だったので、松原部長の配慮は大変ありがたかったと考えています。

(3)企画のとりまとめに向けて
①徹底した情報収集
地方の元気再生事業でも、市食育推進計画と同様に徹底した情報収集に努めました。

内閣官房・内閣府主催の説明会に参加するのはもちろんのこと、近畿農政局や近畿経済産業局にも積極的に連絡をとり、基礎的な情報収集に努めました。

また、和歌山県北山村や京都府綾部市など、平成20年度に地方の元気再生事業に取り組んだ市村の事例も勉強し、担当者に電話などで内容確認を行いました。

北山村の取組は、「村ぶろ」というブログ・ポータルサイトを自治体自ら運営するなど全国でも例を見ないユニークなものです。この事業の聞き取りで参考になったのは、申請する協議会の参加団体であれば、NPO法人や企業体でも地方の元気再生事業の実施主体になれるということでした。

市食育推進会議には、地域の放送メディアである和歌山放送を正式メンバーとして迎え入れていました。したがって、紀の川市の事業でも、和歌山放送が主体となった機動的な事業展開が可能となるわけです。

綾部市は、京都府の北部にある市です。過疎化や高齢化に悩み、この事業で、都会から移住を促進する定住交流に取り組んでいました。平成20年度の取組の中では、全国で最高レベルの評価を得ています。

私は綾部市にも足を運び、実務のノウハウを教えていただきました。聞き取りの中で分かったのは、この事業の事務手続きが非常に煩雑だということです。市役所だけで事務を抱え込むと業務がパンクするおそれがありました。
事業実施のかぎは、様々な主体に事務を分散することだと分かり、申請の段階で大いに参考にさせていただきました。

②企画の工夫
地方の元気再生事業の企画競争を勝ち抜くためには、事業の趣旨に沿った企画段階での工夫が必要になります。
私は、今回の企画は「食育」をキーワードにして、紀の川市の食に関する様々なまちづくりの取組を連携させることがポイントだと考えました。そうした中で出てきたのが「医・食・観光」の連携という提案です。

「医」は、紀の川市の誇る医聖・華岡青洲の顕彰施設である青洲の里を中心に情報発信することです。

「食」は、言うまでもなく、いちじく、はっさく、桃、柿など紀の川市で豊富に生産される果物のPRや食育メニューの開発の取組を進めるものです。

「観光」は、今後紀の川市で発展することが期待される、農業の体験型観光や農家民泊のモデルコースを確立することです。

この「医・食・観光」の三つを有機的に連携させることによって、相乗的な効果の発揮が期待されると考えました。
例えば、「食」の取組で開発された食育メニューを、「観光」の農家民泊の食事として観光客に食べてもらうことが考えられます。この結果、食育の取組を観光と直結させ、「食育のまち」として情報発信することが可能になります。
その他、先導性・モデル性、持続性、複合性など地方の元気再生事業の選定基準にも配慮しながら、企画をたてていきました。

③数値目標の設定
地方の元気再生事業では、一年間の取組の成果を検証するため、目標を定めることが求められています。

目標は必ずしも数値でなくてもいいのですが、「分かりやすさ」を考えあえて数値目標を設定することにしました。

この設定は大変重要ですが、極めて難しい作業とも言えます。

というのは、目標数値をつくる以上はきちんとした根拠が必要ですし、より高い目標設定が求められます。一方、あまり前広に数値設定をしてしまうと、1年後に検証する際、目標がクリアできない事態に陥ってしまうわけです。
このため、根拠付けが可能で、一年間でぎりぎり達成可能な目標設定を心がけ、以下のような目標を掲げました。

(目標1)青洲の里 フラワーヒルミュージアム年間入館者数
平成20年(現状値)41,088人 → 平成21年 5万人
青洲の里の年間入館者数は、平成11年度の9万人をピークに年々減少を続けていましたが、青洲の里を「食育の拠点」と位置づけて情報発信する中で、入館者数の増加は可能と考えました。青洲の里事務局とも協議した上で、約1万人増の5万人という目標を掲げました。
楽に達成できる目標ではありませんでしたが、皆がやる気になれば達成可能なぎりぎりの数値目標でした。

(目標2)食育についての市民の認知度
平成19年(現状値)82.9% → 平成21年 90%
この目標数値は、市食育推進計画に掲げられている目標を3年間前倒しして設定しました。食育フェアの開催や地方の元気再生事業の実施によって食育の認知度を高め、前倒ししても90%の目標は達成できると考えました。

(目標3)紀の川市農村体験交流の参加者数
平成18年(現状値) 800人 → 平成21年 1,900人
この目標数値は、紀の川市長期総合計画で掲げられている目標を3年間前倒しして設定しました。
JA紀の里体験農業部会の受入人数がベースとなった数値ですが、地方の元気再生事業の実施とあわせて農村体験交流の需要が増加傾向にあることを踏まえ、達成可能と判断しました。

(4)提案の概要
紀の川市の食育に関する様々な主体との調整を経て内閣官房・内閣府に提出した提案の概要は以下の通りです。
近畿大学の仁藤伸昌教授に最終チェックをお願いした際、「気持ちがすっきりするような大変できの良い企画書ですね」というお褒めの言葉をいただきました。

「食育のまち紀の川市」提案の概要
医・食・観光の面から「食育のまちづくり」を進めるため、以下の事業を実施。
①食育のまち推進事業(食育メニュー等)
②食育のまち啓発普及事業(教育素材の開発等)
③食育のまち宿泊体験交流事業(モデルコース作り等)

〇提案名 「食育のまち紀の川市」~華岡青洲の生誕地から食育のまちづくりを発信~

〇提案団体名 紀の川市食育推進会議

〇目指すべき地方再生の全体構想
農業を基幹産業とする和歌山県紀の川市では、桃、柿等の果実をはじめとして、米、野菜など四季折々の旬の食べ物が豊富に生産されている。また、医聖・華岡青洲の顕彰施設「青洲の里」における「健康バイキング」の提供や、JA紀の里「めっけもん広場」における地元農産物の直売、学校給食への地場産品の活用など、地産地消に積極的に取り組んできている。
このような状況を踏まえ、平成20年9月、生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるべきものとして位置づけられる「食育」を市民運動として推進していくため、『紀の川市食育推進計画~たのしい、おいしい『食』を育むきのかわ市~』が策定された。
紀の川市食育推進計画では、家庭・学校・地域等における食育を推進するとともに、「青洲の里」等を食育の拠点として位置づけ、紀の川市の農業に根ざした食育の推進を図ることとされている。本計画を踏まえ、医・食・観光の観点から「食育のまちづくり」に取り組み、青洲の里等を中心とした地域の再生を図るため、地方の元気再生事業を提案するものである。

〇提案の背景
紀の川市は、華岡青洲の生誕地であり県下第一の農業生産を誇る「果物王国」であるが、今後、「食育のまちづくり」を推進する観点から、以下の課題が残されている。

①紀の川市としての地域ブランドが確立されていない。
紀の川市は、平成17年11月に旧那賀郡の5町(旧打田町、旧粉河町、旧那賀町、旧桃山町、旧貴志川町)が合併してできた新市である。旧町単位では旧桃山町の「あら川の桃」などのブランドが確立されているものの、紀の川市独自の地域ブランドはいまだ確立されていない。

②農業の振興と紀の川市の安全・安心な農産物のブランド化
紀の川市の基幹産業である農業は、農家の高齢化や価格低迷等により、農業産出額が減少(平成7年・233億円→平成17年・161億円)しており、その振興が課題である。また、紀の川市では、環境保全型農業により果実・野菜など多くの農産物が生産されているが、今後、紀の川市における安全・安心な農産物のブランド化を確立していくことが必要である。

③滞在型の体験型観光が確立されていない
関西空港から一時間圏内という利便性を活かして、体験型農業を観光と組み合わせて推進することが課題となっているが、紀の川市では未だ体験型農業に取り組む農家等が少ない。また、宿泊施設等が充実していないことから滞在型の観光振興が図られておらず、今後、農家民泊等の推進が課題となっている。

④地産地消の推進と食料自給率の向上
紀の川市の食料自給率は65%と、全国の食料自給率の40%から比べれば高い割合にあるが、「食育のまちづくり」を進めていくためには、地場農産物や米粉の活用など地域でとれたものを地域で食べる「地産地消」を一層推進し、食料自給率の向上を図っていく必要がある。

⑤食育の拠点である「青洲の里」の入れ込み客の減少
青洲の里のフラワーミュージアムの入れ込み客は、当初の9万人(平成11年度)から41,000人(平成20年度)に落ち込んでおり、年々減少している。今後、青洲の里の「食育の拠点」という位置づけを明確にし、「健康バイキング」のメニューなどを見直すことによって、青洲の里の入れ込み客の増を図ることが急務になっている。

〇 地方の元気再生事業で取り組む内容のねらい
紀の川市は、医聖・華岡青洲の生誕地であるとともに、「果物王国」というべき全国に誇る豊かな農産物が生産されている。平成20年に紀の川市食育推進計画が策定され、医・食・観光の連携による「食育のまちづくり」が課題となっている。
このため、近畿大学生物理工学部・和歌山大学観光学部の参画も得て、食育推進会議の構成団体である市・JA紀の里・(財)青洲の里・㈱和歌山放送が一体となって、食育メニューの検討や食育研修会の開催、食育の啓発普及、宿泊体験交流のプログラムの開発等に取り組み、「青洲の里」等を拠点とした「食育のまちづくり」を市内外に発信し、地方の元気再生を図る。

取組① 食育のまち推進事業
紀の川市が華岡青洲の出身地であることを踏まえ、近畿大学生物理工学部生物工学科(仁藤伸昌研究室)と連携し、医・食・観光の面から、青洲の里における地場農産物、米粉等を用いた「食育メニュー」を検討する。あわせて、米粉と地場農産物を活用した料理コンテストを実施し、地産地消の推進・食料自給率の向上を図るとともに「青洲の里」の健康バイキングメニュー等に反映する。
また、「青洲の里」・「めっけもん広場」を「食育の拠点」として位置づけて、アグリ体験活動や食育研修会等を開催することにより、「食育のまち紀の川市」をPRし、41,000人まで落ち込んでいる「青洲の里」の入れ込み客の増加を図る。

取組② 食育のまち啓発普及事業
紀の川市の「食育のまちづくり」の啓発普及を推進するため、「食育」に関する教育素材(紙芝居、カルタ、食育啓発DVD)を開発するとともに、市内で食育講演会・シンポジウムの開催などを行う。

取組③ 食育のまち宿泊体験交流事業
紀の川市の「食育のまちづくり」を推進するため、医・食・観光の面から、和歌山大学観光学部観光経営学科(竹田明弘研究室)と連携して、市内の農業体験や農家民泊、観光、健康づくりウォーキング等を組み合わせた宿泊体験交流プログラムの開発をモデル地区の実証試験等を通じて行う。また、農家が食育の取組について子どもたち等に講義する「食と農の語り部」となってもらうための研修会を開催する。

(5)事業採択と事業実施
平成21年6月30日、地方の元気再生事業の採択通知が、内閣官房・内閣府から紀の川市食育推進会議に送付されてきました。
全国で696件の応募のうち、191件の採択があり、そのうちの1つとして私たちの提案が選定されたわけです。最終的な採択率は当初予想していたよりも高い採択率となりました。当時の麻生政権が、景気浮揚のための追加補正予算を地方の元気再生事業に充てていたことが原因のようです。

民間有識者からなる地域活性化戦略チームの検討・助言を踏まえ、先導性・モデル性、持続性、複合性等の基準に基づいて選定を行ったとのことです。

私たちの提案が選定されたという第一報を聞いたときには、「喜び」よりも「ほっとした」というのが実感です。
「食育のまち紀の川市」の採択予算に市単独予算を加え、6月市議会の補正予算で認めていただいていました。予算的には、すぐに執行できる体制が整っていたのですが、正式な国からの委託契約は、8月初旬でしたので、体制を整えるまでに少し時間がかかりました。

実は、実務的にこの採択前後の時期が一番苦しかったのを覚えています。

採択されるか否か不明確な段階で市の補正予算を要求せざるを得なかったのは、議会対策上辛いところでした。
かといって、9月市議会まで補正予算計上を待ってしまうと、予算執行に支障を来してしまう可能性があります。
事業主体となる各団体の体制づくりについても、採択が見えない中で進めなければならず、企画会議を開催しては「採択されなかった場合は、申し訳ないのですが・・・」とコメントせざるを得ませんでした。

採択された後も、各団体で事業を一気に進めてもらう必要がありました。というのは、年度内に事業の評価まで行うとのことでしたので、実質、年内には事業の大部分を終えておく必要がありました。

なお、市単独事業50万円は、地方の元気再生事業の対象とならない経費がある場合を想定して計上しました。たとえば、青洲の里で実施した米粉創作料理コンテストの入賞者への賞金等は、事業の対象にならなかったので、この市単独事業から支弁しました。

事業の実施体制としては、以下のような体制を組みました。
市の各部が協力する中で、JA紀の里や青洲の里など市食育推進会議の各団体が主体となって事業を進める体制を構築しました。

(「食育のまち紀の川市」実施体制)※( )内は市役所事務担当

○総括 市食育推進会議 三國会長、畑副会長(理事)
①食育のまち推進事業
・地場農産物を用いた食育メニューの開発 三國会長(農業振興課)
・米粉創作料理コンテストの実施 (財)青洲の里(農業振興課)
・先進地(福井県小浜市)との交流 (農業振興課)
・食育研修会等の実施 JA紀の里販売部(農業振興課)

②食育のまち啓発普及事業
・食育カルタ・食育紙芝居の作成 市内保育士によるワーキンググループ(保健福祉部子育て支援課)
・食育啓発DVDの作成 和歌山放送(教育部学校教育課)
・食育啓発講演会の開催 畑副会長(農業振興課)

③食育のまち宿泊体験交流事業 JA紀の里体験農業部会(商工観光課)

(6)事業の紹介
1)食育のまち推進事業
①『たのしい おいしい きのかわ食育メニュー』
『きのかわ食育メニュー』は、「食育」という観点から、紀の川市の郷土料理や農産物の魅力を再発見し、家庭や農家民泊での健康的な食の提供に貢献する目的で作成しました。

『きのかわ食育メニュー』メニューは全部で80種類。内訳は、ごはん類15品、おかず55品、汁物6品、おやつ4品です。
じゃこ寿司などの郷土料理や、地場産野菜・果物、米粉をふんだんにつかった紀の川市オリジナルの創作料理を掲載しています。

メニュー一つひとつに主食・副菜・主菜などの色分けと数量(つ・SV)を示すとともに、エネルギーや脂質、食塩相当量も記載しています。

きれいなカラー写真や作り方、コメントなども盛り込み、気軽に使えるようになっています。

メニュー冊子には、一日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかが一目でわかる食事の目安として、紀の川市オリジナルの「紀の川市食事バランスガイド」を紹介するページも入れています。

紀の川市食事バランスガイドのコマ

このコマのバランスをとって運動するのは華岡青洲ゆかりの「せいしゅう君」です。主食・副菜・主菜・果物などの例示食品のイラストには、茶がゆや柿を採用するなど、地元色の強いものとなっています。

食育のまち宿泊体験交流事業のモデルコースを紹介するページもあります。農家民泊でこのメニューを活用してもらうことで、健康志向の観光客が増えるのではないでしょうか。

紀の川市で栽培されている農産物や収穫時期を記載したページも入れていますので、地産地消の推進に一役買うはずです。

このメニュー冊子のために、市内の食育関係者、栄養士グループ、宿泊体験農業関係者などのほか、近畿大学生物理工学部の仁藤教授にも参加していただいて検討委員会が結成されました。

8月に初会合をしてから、多いときには週1回程度集まって、献立の作成や栄養計算、メニュー調理、試食、撮影などを行いました。委員長である三國さんはじめ栄養士の方々が委員会に多数はいっていましたので、栄養計算や調理などにも、その専門知識を存分に発揮していただきました。毎回試食も必ず行い、委員の意見を集約してレシピの内容に活かしました。

食育メニューの調理風景

このメニューの中で、3番「じゃこ寿司」、9番「茶がゆ」、16番「〆(しめ)豆腐」、78番「しゃな餅」など郷土料理・伝承料理を二一品掲載しています。紀の川市の風土に育まれてきた郷土料理を見直していただくことで、食を通じた郷土愛の醸成にもつながると考えています。

また、40番「ほうれん草の柿おろし和え」、41番「サラダ イチゴドレッシング」60番「白菜と八朔のサラダ」、70番「イチジクの揚げだし」は、紀の川市産の果物を使った創作料理です。料理のアクセントにもなり、紀の川市産果物の新しい活用方法として、普及が期待されます。

14番「米粉deお好み焼き」、65番「チキン米粉揚げ」、80番「米粉蒸しパン」は、米粉を使った創作料理です。地元産米の新たな活用方法としてだけなく、紀の川市の食料自給率の向上にも貢献するはずです。

66番「鶏肉の金山寺味噌焼き」、67番「野菜と金山寺味噌入りつくね」も、地元名産の金山寺味噌を調味料として使うひと味ちがった活用方法です。

私自身も、このメニューを使って、自宅で料理を試みました。44番「ナスの煮物」は、やわらかくて優しい、上品な味がします。73番「新玉ねぎの丸ごとスープ」は、紀の川市の特産の玉ねぎを丸ごと煮込むもので、甘みがにじみ出るようなおいしさです。我ながら意外と?うまくつくれたので、少々感動してしまいました。

このメニューは、平成22年2月に開催された第3回食育フェアで配布し、市内図書館でも閲覧できるようにしています。
毎年10月に開催される青洲まつりの「うまいもん横丁」や11月の産業まつり、2月の食育フェアでも、各団体がこのメニューの数品を出品しています。

今後も、紀の川市の「食育の心」を伝える重要なツールとして、このメニューを役立ててもらえれば幸いです。
この食育メニューは、紀の川市の食育に関わる女性陣の力が結集したものと言えます。
和歌山放送にも協力していただいたおかげで、料理の美味しそうな写真、冊子のレイアウトなど大変きれいなものに仕上がりました。

検討委員会の方々には、大変ご苦労をおかけしましたが、手づくりの大変すばらしい冊子ができあがったと考えています。
紀の川市の食育推進の核として、この冊子が活用されることを期待しています。

なお、『たのしい おいしい きのかわ食育メニュー』は、ホームページで公開しているほか付属CDにPDFを添付していますので、ぜひご覧下さい。

②米粉創作料理コンテスト
医聖・華岡青洲の顕彰施設である青洲の里では、従来から「健康創造」を基本理念として、地元でとれた食材をふんだんに用いたバイキングレストランや、米粉パンの製造販売を行ってきました。
この青洲の里を「食育の拠点」として位置づけ、情報発信を強化するため、地方の元気再生事業で料理コンテストを実施することにしました。

コンテストのテーマとして選んだのは「米粉」という食材です。

日本の食料自給率は40%と低迷し先進国で最低レベルとなっています。特に主食の米の消費が低迷していて、90%以上を輸入に頼る小麦の代替として、米粉の利用が全国的にも注目されています。

また、JA紀の里めっけもん広場で地元産米粉「こめっこ」の製造販売を開始したこともあり、「地元産の米粉」の認知度を高め紀の川市の食料自給率の向上をめざすためにも、「米粉」にスポットを当てるべきだと考えました。

米粉創作料理コンテスト

コンテストの実施に当たって、青洲友の会をはじめとする地元の団体に実行委員会を設置していただきました。この実行委員会で募集要領など基本的なことを決定し応募受付を開始しました。

募集のPRについては、実行委員会を通じて地元の各団体に配布したほか、和歌山放送等のマスコミを通じての周知を行いました。近隣の中学校・高校や、信愛女子短期大学の先生を通じて出品を依頼したのも大きな効果があったようです。

平成21年10月から1ヶ月間行われた作品応募期間に予想を上回る156点もの応募がありました。

一次審査として実施した書類審査の基準は、①紀の川市らしさ、②家庭での普及期待度、③商品としての普及期待度、④創意工夫です。

実は、この一次審査に大変な労力が必要となります。審査期間が短い上に大量の応募作品を丁寧に見なければなりません。一次審査の審査員の方には、ずいぶん無理をお願いしました。

平成22年1月19日、青洲の里で行われた米粉創作料理コンテストの本選には、この書類審査を経た21作品が出展されました。小学生や高校生の入選作もあるなど多彩な作品が並びました。

本選には、相愛大学客員教授の坂本廣子さんをはじめとした7名の有識者に審査をしていただきました。

コンテスト本選審査風景

審査基準は、①見た目、②味・食感、③普及性、④独創性の4点です。当日は、紀の川市産の米粉をつかって試食も行えるようにしたので見た目や味・食感なども重要な審査基準として位置づけました。

一次審査を通過した作品はいずれも劣らぬ力作ぞろいで、審査員の先生方も入賞作品の選定に悩み予定の審査時間を延長するという一幕もあったほどです。

最優秀賞として兵庫県宝塚市の山脇茂子さんが受賞されたのをはじめ、一般参加者の投票による「オーディエンス賞」も含め、次の5作品の入賞が決定しました。

最優秀賞 レンコン・ゴボウのお食事マフィン
優秀賞 里芋団子のおろしがけ
優良賞 紀の郷蒸し
優良賞 米粉の黒豆入りわらびもち
オーディエンス賞 米粉団子のグラタン

これらの作品は地元産米粉の新しい活用方法として大変参考になるものです。今後、青洲の里の健康バイキングメニューに出すなど、幅広く米粉の普及に向けて取り組んでいく予定です。

本選出展作品については、一冊の冊子にまとめ、きれいな写真つきでレシピをホームページで公開しています。付属のCDにもPDFを添付していますので、ぜひ、ご覧ください。

このコンテスト入賞作の中で私のお気に入りはオーディエンス賞となった「米粉団子のグラタン」です。パスタ類の代わりに米粉団子をつかって、おいしいグラタンに仕上がっています。

「お米の消費拡大が目的ということなので、米粉をたくさん使う料理をと思って使ってみました」とのコメントもあり、コンテストの主要な目的である食料自給率の向上にも一役買うことが期待されます。

実は、このコンテストで一番苦労したのはこの「米粉」というテーマの選定でした。前年に行った紀の川市の山間部にある鞆渕(ともぶち)地域の黒豆の料理コンテストの場合、黒豆という特産品がありテーマの選定はあまり悩みませんでした。一方、青洲の里での料理コンテストでは、どのような食材をテーマに選ぶかが難しく、多くの時間を議論に費やしました。

当初、「郷土料理」、「有機野菜」、「柿」などのテーマではどうだろうかという意見もありましたが、テーマや食材の供給の限界などの問題にぶちあたりました。

結局、米粉をテーマにしたコンテストに落ち着いた理由は、もともと米粉パンの販売など青洲の里でも米粉になじみがあったことや、JA紀の里で米粉の製造販売をはじめたこともあり、米粉をテーマにすれば食料自給率の向上や地産地消といった趣旨を前面に出すことができ、地方の元気再生事業のテーマとも合致すると考えたからです。

結果的に「米粉」というテーマを選んだのは大成功で、青洲の里の「食育の拠点」としての位置づけを明確にし、今後の展開に期待がもてる取組になったと考えています。

③先進地との交流事業
福井県小浜市は、全国レベルの食育の先進市です。

小浜市の食育の取組は、平成12年8月の村上利夫市長の就任からはじまり、平成13年には全国ではじめての食をテーマにした「食のまちづくり条例」を制定、平成15年「御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館」のオープン、平成16年「食育文化都市」宣言など「食」を核にしたまちづくりを進めてきました。特に「食育」は重要な分野として条例の中に位置づけ、幼児から高齢者に至るまで、あらゆる世代を対象に食育事業を実施しています。これに伴い、観光交流人口も、平成12年の89万人から、平成20年の184万人と2倍近く増加しました。

食育基本法の制定が平成17年ですから、それに先立って「食のまちづくり条例」が制定されたことなどは、まさに日本の「食育」を先導したと言っても過言ではないでしょう。

最近では、「オバマ候補を勝手に応援する会」が結成されるなどユニークな取組が市民レベルからも発信され、世界的な?注目も集めています。

私は、小浜市の素晴らしいところは、「食」をまちづくりの中心にすえて、市全体で食育に取り組んでいることだと思います。「御食国若狭おばま食文化館」という食育の拠点を中心として、市民レベルでも食育に取り組んでいます。

 

御食国若狭おばま食文化館

なお、「御食国(みけつくに)」とは、古く飛鳥・奈良時代から朝廷に塩や海産物などの食材を提供した国を指すそうです。我が紀伊国(きいのくに)も同様に朝廷に「食」を提供してきた歴史がありますから、古くから「食」という基本的な部分で両地域がつながってきたといえるかもしれません。

食育の先進市と交流構想を議論した際、畑副会長から提案があったのが小浜市でした。私が内閣府食育推進室の担当者にアドバイスを求めた際にも、真っ先に推薦されたのが小浜市でした。

こういった経緯をふまえ、平成22年8月に紀の川市食育推進会議のメンバーで小浜市を訪れました。その際、松崎晃治市長はじめ小浜市の方々から、食育の推進に関して様々なアドバイスをいただけたのは大変ありがたかったです。

翌年2月紀の川市で開催された食育フェアに小浜市の皆さんに来ていただき、小浜市政策専門員の中田典子さんの講演や若狭塗り箸の実演をしていただきました。

なお、「解体新書」「蘭学事始」の著者であり小浜藩の藩医でもあった杉田玄白は、華岡青洲と書簡の交流があったでも知られています。

江戸時代から縁があった両市が、平成になってから「食育」というキーワードで再び結ばれたのは、不思議な縁というべきですね。

④食育研修会
平成21年4月、JA紀の里めっけもん広場に「楽農クラブハウス」という研修施設が誕生しました。
めっけもん広場は、生産者と消費者が直接交流できる農産物直売所というだけでなく、年間80万人ものお客さんが訪れる情報発信基地としての側面もあります。

「楽農クラブハウス」を拠点として、生産者の食育の想いを伝えていく研修会が企画できたら・・・。JAの関係者がそう考えたのが、地方の元気再生事業で食育研修会に取り組むきっかけでした。

このプロジェクトは、実行委員会形式をとらず、JA紀の里販売部の大原稔部長、永山聖也さん、直高正さんを中心に、将来の有料化等を見据えて様々な形態の研修会を企画していただきました。研修会の参加者へのアンケート調査を通じて、研修会の内容の検証も欠かさず行いました。

めっけもん広場で行われた食育研修会をいくつかご紹介します。

(1)旬の果物、野菜の簡単レシピ
食育ソムリエなどを講師に招いて、旬の地場産果物を食材につかい、早くて・簡単・おいしい調理方法の伝授を行うものです。
地場産のブドウやいちじく、柿などを材料にして、ジュースやジャム、シャーベットなどをつくる講習会を、月に一回程度、計八回実施しました。

毎回、果物が食生活や健康に果たす役割などについて話題に取り入れるようにしました。

たとえば、果物は嗜好品と位置づけられがちですが、食事バランスガイドの中ではコマの下の部分の半分を占めています。栄養バランスのとれた食生活を支える上で果物が重要な役割を果たしていることがわかります。

果物には、ビタミンなどの栄養分だけでなく食物繊維もたっぷりと含まれており、一日200グラム以上果物を食べることが推奨されています。

このような果物を摂ることの重要性を参加者にさりげなく分かってもらうよう、毎回、絵入りの説明資料を用意しました。

また、調理品は必ず試食してもらい、地場産果物への関心を高めてもらうようにしました。
「みかんご飯」や「米粉キウイパイ」など変わり種のレシピも用意して、大変人気の高い研修会となりました。

(2)伝承料理等講習会
干し柿やしめ縄の作り方といった昔ながらの「農家の知恵」。

こういった地域に伝わる無形の財産を伝承する目的で「伝承料理等講習会」を開催しました。
講師は地元の農家の方にお願いし、紀の川市に残る昔話などを交えながら、「農家の心」を伝えてもらうようにしました。
後日、参加者に提出してもらったレポートには、

「しめ縄を結ぶ。この中に縁を結び、家族と自分の心をしっかり結ぶ」

といった言葉で家族の心の大切さを学ぶことができたと感謝のメッセージをいただきました。

しめ縄づくり講習会

(3)元気再生オープンカフェ
和歌山大学観光学部と連携して「楽農クラブハウス」でパネルディスカッションを行いました。

観光学部教授、JA紀の里大原部長に加え、私もパネラーとして参加させていただき、紀の川市の農業の再生と地域の振興について熱く語り合いました。

めっけもん広場の直売所としての役割だけでなく、他の市内観光施設との連携の重要性を再認識させていただく良い機会となりました。

(4)外部講師による元気再生講演会
市外から有名な講師を招いて、食育や農村活性化について話をしてもらう講演会も企画しました。

例えば、鹿児島県鹿屋市の作家・郷原茂樹さんに「すべての地域が生き生きと」と題して講演していただきました。

郷原さんは、作家として活躍するだけでなく、鹿屋市にあるフェスティバロという会社の社長として、鹿児島県の特産である「からいも」(さつまいも)を素材にしたスィーツを全国展開し成功をおさめた実業家としても知られています。

郷原茂樹さんの講演

郷原さんからは、現場に足を運んで判断することと、取引先と個人的な信頼関係を築くことの重要性について話がありました。郷原さんは、そうやってJALや大丸との関係を築いてきたので、今日があるとのことでした。

実は、郷原さんとは、私が20代で鹿児島県末吉町に赴任して以来のおつきあいです。そのころは鹿屋市の小さなお菓子屋さんだったのが、現在では、年商15億円、全国の空港に支店を出すほど成長をとげています。

お忙しい中で紀の川市まで来ていただき、紀の川市のまちおこしにとって大変参考になるお話をいただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げたいと思います。

(5)子どもたちの販売体験等
「農業体験」といえば、通常「植つけ」や「収穫」が思い浮かびますが、このプロジェクトでは、紀の川市内の小学生に農産物の「販売体験」をしてもらいました。

子どもたちには、この販売体験を通じ、紀の川市産の農産物がどのように消費者に届くのかを学習し、社会の基本を学んでもらえたのではないかと考えています。

2)食育のまち啓発普及事業
①食育カルタ・紙芝居
皆さんは、「食育の心」を子どもたちに伝えていくにはどのような方法がいいと思いますか?

地方の元気再生事業の企画段階で出てきた方向のひとつが、「食育カルタ・紙芝居」の作成でした。
カルタや紙芝居であれば、遊びを通じて子ども達に「食育の心」を伝えることができるはずです。

ただ、事業が採択された際、どうやってカルタや紙芝居をつくっていけばいいのか大変悩みました。
食育に関するカルタをつくった自治体もすでにいくつかあることを知り問い合わせたところ、NPO法人に任せた団体、「読み句」を公募した団体、様々な手法があることが分かりました。いずれも大変な労力がかかっています。

紀の川市では、できる限り地元の関係者の手づくりにこだわりたいと考えました。このため、保健福祉部子育て支援課に相談して、14カ所ある市立保育所の保育士さんを中心としたワーキングチームを結成してもらいました。

ワーキングチームには、10名の保育士さんのほか子育て支援課、近畿農政局和歌山農政事務所の濱出哲夫さん、和歌山放送の福田雅之さんにもはいってもらいました。8月に初会合を行い、月に2回程度会合を重ねて食育カルタ・紙芝居の案を練り上げていっていただきました。

ワーキングチームでの保育士さんの作業風景

◆紀の川市食育カルタ
食育カルタの作業で一番苦労したのは、「読み句」の作成です。

紀の川市内でとれる果物や野菜、郷土料理などを題材にして食育に関する読み句としていくのですが、あいうえお順に適当な読み句を作成していくのは大変な作業となりました。

ワーキングチーム以外の保育士さんからも読み句を募集して案を出し合い、複数の案があったものは多数決で決定しました。
さくらんぼに関する読み句の提案があった際には、さくらんぼが実際に紀の川市内で栽培されているかJAに確認するなど苦労しましたが、皆でわいわいと議論する過程も、良いものを作り上げるためにはよかったようです。

絵札のイラストは、和歌山放送を通じてプロのイラストレーターさんにお願いしました。

保育士さん達からは、「絵は可愛い感じにしてほしい」、「子どもの手足は細くなりすぎないようにしてほしい」など多くの要望がありましたが、細かいところにまで目をいきとどかせ、読み句と連動した大変素晴らしい絵札ができあがりました。

札の大きさは、保育士さんの意見で通常より大きいA6版としました。子ども達が皆で遊ぶのにほどよい大きさとなっています。

紀の川市食育カルタ

絵札には、紀の川ぷるぷる娘や猫の駅長たまを登場させるなど子どもたちに親しみのもてる絵柄を採用し、地産地消、食育の要素などを随所に盛り込んだ内容となっています。

以下に、紀の川市食育カルタの一部をご紹介しましょう。

〇食育に関するもの
「あさごはん しっかりたべて いちにちげんき」
「にこにこと おやこでしょくいく めざすまち」
「てをあわせ いただきます ごちそうさまの ごあいさつ」

〇郷土料理に関するもの
「なつには つめたいちゃがゆ おいしいな」
「ことこと よくにた のっぺをたべよう」

〇紀の川市産野菜・果物に関するもの
「きのかわがき つるつるぴかぴか かきぷる」
「とまとはね したからよんでも とまとだよ」
「ひとかわふたかわ どんどんむけるよ たまねぎさん」

〇その他
「ねこのえきちょういるところ いちごでんしゃで いちごがり」
「ぬくもりといっしょにとどける ふくしべんとう」

食育に関しては、朝ご飯の大切さなど大切なメッセージが込められています。郷土料理についても、紀の川市で受け継がれてきた茶がゆやのっぺなどを登場させて親しみをもたせてくれています。

地場野菜に関して「とまと」は傑作の部類です。市内の保育所で「とまとはね したからよんでも とまとだよ」の読み句が大受けしているそうです。

「ぬくもりと いっしょにとどける ふくしべんとう」の福祉弁当は、一人暮らしのお年寄りに月2回程度お弁当を配布する紀の川市社会福祉協議会の事業です。弁当の包み紙は保育所の子ども達が一枚一枚絵を描いて届けているので、お年寄りに大変喜ばれているそうです。

絵札の弁当箱の絵柄にもこだわって、デジカメで撮影した実際の弁当箱の写真をイラストレーターさんに送り、「花と蝶」の絵柄を描いてもらったりしました。

紀の川ぷるぷる娘のイラストもふんだんに取り入れて、子ども達に楽しみながら食育を身近に感じてもらえる、紀の川市オリジナルの食育カルタができあがりました。

◆紀の川市食育紙芝居
紙芝居は、ストーリーも絵も保育士さん達の手づくりでつくることにしました。食育カルタと同様、全国の事例を調べた結果、野菜の花などを示すクイズ形式の紙芝居の人気が高いということが分かり、紀の川市産の農産物や食材についてのクイズ形式の紙芝居を2種類つくることにしました。紀の川ぷるぷる娘を主人公にしたストーリーものの紙芝居もつくることにしました。
以下に保育士さん達が作成した3つの紙芝居を紹介させていただきます。

〇『なにからできてるの?』
「なにからできてるのかな? これからおもしろいクイズがはじまるよ・・・」という問いかけからはじまるこの紙芝居。牛乳、おにぎり、かまぼこなどが何からできているか3択で子ども達に答を当ててもらいます。

『なにからできてるの?』

このクイズの素材は、「子ども達に教えたい食べもの」、「分かりそうだけど分かっていないようなもの」といった基準で選びました。

例えば、「おにぎり」のクイズでは、「むぎ」・「こめ」・「ねこじゃらし」の三つの絵が出ています。

答は当然「こめ」ということになります。意外と「稲穂からコメが収穫できる」ことを知らない子どもがいるので、保育士さんはこういったことを子ども達に教えたかったそうです。紙芝居でさりげなく食育の心を伝えているのですね。

〇『なんだろうな? なんだろうね?』
この紙芝居は『なにからできてるの?』と対になった構成となっています。

『なにからできてるの?』では、「もの」の素材を当てるクイズとなっていますが、『なんだろな? なんだろね?』では、逆に素材から「もの」を当てるクイズになっています。

『なんだろな? なんだろね?』

例えば、「おにぎり」を当ててもらうのに、「しろいご飯」と「くろい服」、「おなかには うめぼしや しゃけ、こんぶがはいっている」・・・「さあ、だ~れだ?」といった具合です。

おにぎりにはじまって、たまごやき、ウインナー、ブロッコリーなど食材当てクイズが続き、最後は当ててもらった食材を詰めた「お弁当」が出てきてお終いとなります。

このように、食材のクイズを通じて「楽しく食べる大切さ」を子ども達にしっかり伝えることができる紙芝居となっています。
子ども達と普段から接している保育士さん達だからこそできた心温まる「食育紙芝居」ができました。

〇『ぷるぷるむすめのだいぼうけん』
この紙芝居は、紀の川ぷるぷる娘6人姉妹を主人公にしたおとぎ話です。

紀の川ぷるぷる娘たちが歩いていると、くしゃみやおなか痛で困っているおねえさんやおじさんに出会い、ぷるぷる娘がそれぞれのフルーツを与えることで問題を解決していきます。皆を助けたところで「むしむしかいじゅう」があらわれてぷるぷる娘達を驚かせますが、ぷるぷる娘が助けた大人達が、「ぷるぷるこうせん」でかいじゅうをやっつけてくれます。

ぷるぷる娘たちが、助けてもらったお礼に「紀の川ぷるぷる娘の歌」を歌ってお終いになります。

『ぷるぷるむすめのだいぼうけん』

紀の川ぷるぷる娘は市内の子どもたちに大人気です。ぷるぷる娘を主人公にしたこの紙芝居で、紀の川市特産のフルーツに子ども達が親しみをもってもらえるはずです。

フルーツで病気が直ったり不思議な力がある「ぷるぷるこうせん」が出てきたりしますが、フィクションということでお許しをいただきたいと思います。

◆食育フェアでのお披露目
紀の川市オリジナルの食育カルタ・紙芝居は、平成22年2月に開催された紀の川市食育フェアで披露されました。保育士さん達による紙芝居の読み聞かせ、子どもたちのカルタ大会など大変盛り上がりました。子ども達の「リピータ」もあったほどです。

食育は全世代にわたって推進すべきものですが、特に食生活の基礎が身に付く子どもの時期の食育は大切です。普段から身近に子ども達に接している保育士さん達のおかげで、「食育の心」を子どもたちに楽しみながら伝えることができるツールをつくっていただけたと感謝しています。

食育フェアでのカルタ大会

紀の川市食育カルタ・紙芝居は、市内の保育所はもちろんのこと、図書館など関係機関に配布し、幅広く利用されるように配慮しています。ホームページでも公開しています。付属CDにもPDFを添付していますので、ダウンロードして印刷し切り貼りしてお使いください。

②食育DVD『作り手の思いをつなぐ“学校給食”』
「紀の川市の学校給食のDVDがあればいいですね。」

紀の川市食育推進会議のメンバーだった栄養教諭からの提案が食育DVD制作のきっかけでした。
紀の川市の学校給食は、JA紀の里や紀の川市環境保全型農業グループと連携し、地場農産物を積極的に活用するなど食育の面で先進的な取組が行われています。

また、栄養士や調理員の熱心な取組によって、健康に配慮した美味しい給食が提供されています。

私も、一度学校給食を食べさせていただいたことがありますが、自分の小学校時代とは比べものにならない美味しさでした。地元産の野菜などもふんだんに盛り込まれています。特にご飯が美味しかった。

しかし、この紀の川市の学校給食の取組をPTAの方々はじめ市民の皆さんに見ていただくのは、調理室の衛生管理上難しい面があります。

DVDがあれば、市民の皆さんに衛生面を気にせず学校給食の調理風景を見ていただくことができます。また、小中学校の農業体験活動や若手農家の声などもDVDに盛り込めば、市外の方に対しても紀の川市の食育の基礎である学校給食の取組を紹介することができます。

学校給食の調理風景の撮影

この学校給食のDVD企画は、教育部学校教育課が窓口になり、和歌山放送が実務を請け負う形で制作を進めることになりました。

DVDの制作のために撮影チームが組織され、何度も紀の川市を訪れました。農家や調理員や学校関係者など様々な方々の協力の下、DVDの制作が進められていきました。

DVDは、子どもたちが学校給食を食べているシーンからはじまります。食育基本法にはじまる食育の一連の流れを解説した後、学校給食の場面に移ります。

紀の川市の学校給食は、センター方式と自校方式の二つの方法があります。センター方式は複数の学校の給食を一箇所の施設でつくるもので、紀の川市では粉河地区と那賀地区で行われています。自校方式は、学校の調理室で学校の給食をつくるものです。

学校給食では、安全な給食を提供するために「学校給食衛生管理基準」が定められていて、紀の川市の給食でも厳格に守られています。

使用水の安全確認、食材の納品、納入食材の検収、野菜の洗浄、加熱調理の開始、加熱温度の確認と記録、検食、配食といった行程が実際の作業風景とともに解説されます。

私が改めてすごいなと思ったのは、野菜の洗浄を3回も行っていることです。これだけしっかり洗えば異物の混入など起きないはずです。調理中のエプロンを、作業にあわせて黄色・青色・赤色と色違いのものに変えていっている管理の徹底さも驚きです。

こういった厳密な行程を経てこそ、安全・安心な学校給食を児童たちに届けることができるのですね。

農家や栄養士、調理員の方々へのインタビューも、子ども達の給食を支えている自信がみてとれてすがすがしい気持ちになります。実際現場で苦労されておられる生の声は大切です。

各小中学校での食育活動の様子が紹介されているシーンも見応えがあります。

平成21年に改正された学校給食法で、学校における食育の推進が新たに規定されました。学校給食を生きた教材として位置づけ食育を推進していくことが必要となっています。

給食委員の子どもたちが校内放送を活用して「今日の給食放送」を行っている安楽川小学校。直接教室に配布する「おたより」を毎日作成して、献立が生きた教材となるように工夫している打田中学校。これらの食育の実践事例は、他の学校でも参考になるのではないでしょうか。

田中小学校の「紀の川市産野菜たっぷりバイキング給食」も、食育の先進事例と言えます。生産者から野菜を育てる上での苦労や工夫を聞いた上で、栄養教諭からバイキングメニューの紹介があります。バイキング給食に使われている20種類の農作物のうち18種類が紀の川市産となっています。バイキング形式なので、ちょっと苦手な野菜も味わってみようと言う意欲をもつことができます。

生産者の皆さんの農作業風景とインタビューも見逃せません。特に、5人の若手生産者へのインタビューはいいですね。彼らが自信と誇りをもって農業をしている様子が分かり、紀の川市の農業の将来に希望をもてるような気がします。

若手農家の営農状況の撮影

最後のナレーションに、このDVDの内容が集約されていると思いますので、以下に引用します。

「学校給食は、単に食事を提供するだけのものではありません。栄養バランスがとれた安全なものを、クラスのみんなと共に楽しく『食べる』ということを基本に、さらにその食事がどのように調理され、その食材はどこから届いているのか、生産者の想いや願いは何なのかなど、『食べる』ことを通じて多くの人たちのつながりや愛情を一緒に味わえるものです。
自然が豊かで一年中いろいろな農作物が豊富にとれる紀の川市だからこそ、地元の農作物をふんだんに使った給食を提供することができ、その給食が『生きた教材』となり、さらに学校での食育が充実していきます。」

紀の川市の学校給食における食育の取組は、全国的にみても先進的なものと思います。そして、その取組を支えているのは、紀の川市の生産者、先生、栄養士、調理員など皆さんの存在です。

改めて、その活動に感謝し、敬意を表したいと思います。

DVDは、『食育のまち紀の川市』のホームページで前篇・後編に分けて公開しています。ぜひご覧ください。

(食育DVD『作り手の思いをつなぐ“学校給食”』 前篇)

(食育DVD『作り手の思いをつなぐ“学校給食”』 後編)

③食育に関する講演会・シンポジウム
平成22年2月20日、食育に関する講演会・シンポジウムが粉河ふるさとセンター視聴覚室で行われました。
食育講演会は、小浜市との交流も兼ね小浜市政策専門員の中田典子さんに『若狭小浜の生涯食育について』と題して講演していただきました。

中田さんによれば、小浜市の食育は、行政だけでなく学校・民間企業など様々な主体が協力しあいながら、全ての世代を対象として「生涯食育」に取り組んでいるとのことでした。

また、食育の推進は市民参画で地域力を最大限に生かして進めることが、重要なポイントだということです。行政主体のままでは食育は定着しないということは、私自身の経験に照らしても納得できる話でした。

中田さんのお話の中で一番印象深かったのは、
「食についてヒトと動物の3つの本質的に違うところは何か?」
という問いかけです。

皆さん何だと思われますか?中田さんは次の3つのポイントをあげていました。
1つ目は、「栽培すること」。
2つ目は、「料理すること」。
そして、3つめが「共に食べること」です。

たしかに、動物は仲間と会話をしながら食べることはありませんよね。
食育の原点は家族や仲間と一緒に楽しく食べることということに、改めて気がつかせてくれた中田さんのお話でした。

食育講演会&シンポジウム

食育シンポジウムは、コーディネーターに和歌山県食育推進会議会長の橋本卓爾さんを迎え、「『紀産紀消』で紀の川市らしい食育を!」と言うテーマで行われました。パネリストは市食育推進会議の三國会長など4名です。司会は、和歌山放送アナウンサーの小川真由さんにお願いしました。

橋本さんは、食育について紀の川市の優れた点を「7つの宝」と表現していただきました。

「7つの宝」とは、①紀の川市の食材、②紀の川市の水、③華岡青洲生誕の地に関わる命の取組、④紀の川市で取り組まれている有機農業、⑤学校給食の地産地消運動、⑥めっけもん広場、⑦和歌山市と紀の川市にしかない食育推進計画とのことです。

橋本さんには、紀の川市の食育について大変造詣の深い表現をしていただき感謝しています。

シンポジウムではパネラーも交え、熱い討議が繰り広げられました。議論の中心となったのは、
「食育に関心のない人にどう働きかけるか」
ということです。議論の中で、

「紀の川市は生涯学習宣言のまちなので食育と共に推進したい」
「消費者の食を選ぶ力を育てるため相談会を開催したら」
「食育の基本は家族のだんらん。子どもと大人が食を通じて共通の話題をもつことが大切」
「紀の川市の地域力アップのために今後の食育の推進に期待する」

など日頃の食育の実践に照らした意見が交わされました。

3)食育のまち宿泊体験交流事業
紀の川市の農業の強みの一つは、関西国際空港から車で1時間圏内という都会からのアクセスの良さです。

紀の川市の農業の将来を考えたとき、この利便性を活かし、体験型農業を観光と組み合わせて展開することが求められています。

JA紀の里めっけもん広場が10年ほど前に開業して売り上げを伸ばし、紀の川市の農家に大きな自信と利益をもたらしたのと同様、体験型農業は、今後の紀の川市の農業を発展させる可能性があります。

ただ、紀の川市には体験型農業に取り組む農家が少なく宿泊施設も充実していません。結果として滞在型の観光客は少なく、今後の条件整備が課題となっています。

一方、紀の川市の農家には、ひと昔前、大家族で生活していた空きスペースがたくさんあります。農家に宿泊客を受け入れて農業体験もあわせて行う「農家民泊」という手法を検討する必要があるでしょう。

地方の元気再生事業では、和歌山大学観光学部准教授の竹田明弘さんの力添えをいただき、体験型農業と観光、農家民泊を組み合わせた宿泊体験交流のモデルコースを作りました。紀の川市産の食材をつかった食育メニューを観光客にふるまうコースを設定するなど食育の面からのアプローチもあわせて行いました。

また、農家に「語り部」になってもらい、紀の川市の「食や農の価値」を観光客に伝えていくことも重要です。農家を対象に、紀の川市の「食と農の語り部」を養成する研修も企画しました。

① 宿泊体験交流事業
宿泊体験交流事業では、JA紀の里体験農業部会の方々が主体となって、モデルコースを検討しました。JA紀の里体験農業部会は、従来から体験型農業を実践している団体です。

和歌山大学観光学部の竹田准教授も参加した企画委員会を立ち上げ、8月から週に一回程度、議論を重ねていきました。市商工観光課も観光面の取組をサポートしました。

和歌山大学の学生さんに農業体験をしてもらい、体験農業部会のメンバーと意見交換等を行うモデル実証事業も行いました。紀の川市の体験型農業や農家民泊の可能性を「外部の目」から検証してもらえた意味は大きかったと思います。

モデルコースの設定に当たって議論が白熱したのは、農業体験によって、

〇「収益向上」を目指すのか、
〇「農業の誇りを伝えること」を目指すのか

ということです。
私も、ドイツの農家民宿や北海道のファームインに泊まり歩いたことがあります。その経験から農家民泊が、

〇食事メニューを充実させていく「農家レストラン型」と、
〇農業に対する理解を深めてもらう「農業啓発型」

の2つのパターンに分化するのを実感していたので、この論点は大変興味深いものでした。
こういった議論がきちんとできたのも、観光のプロである竹田先生がメンバーに参加していたからです。結局、収益向上を目指す方向で進むべきとの結論になり、この事業の基本構想を次の通り定めました。

〇理念 収益UP
〇テーマ 食農
〇目的 農業体験交流での集客
〇手段 魅力的なコース設定

このように最初に基本的な考えを整理しておいたおかげで、後々作業がぶれることなく良い成果をあげることができました。

モデルコースの設定に当たって、ターゲットの客層をどの世代におくのかも議論になりました。基本的なターゲットの年代を決めておかないと、そのターゲットに向けた魅力的なコース設定ができないからです。

議論の結果、ターゲットはお金や時間に余裕のある元気な50代~70代、いわゆる「アクティブシニア層」としました。

また、モデルコースの「売り」、つまり、どの農産物の体験で観光客をひきつけるかについても議論となりました。
結局、紀の川市の特産である「桃」、「いちじく」、「黒あま(紀の川柿)」、「黒豆」の四品目の農業体験を「売り」としたモデルコースを企画することにしました。

それぞれのコースについて委員それぞれが原案を作成し、観光地との連携、ストーリー性など議論を重ねてより魅力のあるコースを作り上げていきました。

コースの目玉である「一緒につくる郷土料理」が食品衛生法に抵触する恐れがないかなど、細部にわたって詰めを行っていきました。

この件について保健所に相談したところ、農家と一緒に作って食べる行為は料理教室などと同じ扱いになり営業許可は必要としないことが分かり、コースの一部に組み込みました。

食育メニューの検討チームとも連携し、宿泊体験交流事業の中での食育メニューの提供について検討を加えました。
コースのパンフレットの中には、70番「いちじくの揚げだし」、40番「ほうれん草の柿おろし和え」、12番「枝豆とトマトのご飯」、23番「黒豆の五目煮」といった食育メニューが盛り込まれています。

農業体験とあわせて、紀の川市産の農産物を食材とした食育メニューを味わっていただけるよう工夫したものです。

農業体験風景

企画委員会での多くの議論を経て作成されたモデルコースのパンフレットは、『旬果旬菜』と名付けられました。

「桃」、「いちじく」、「黒あま」、「黒豆」の四品目を対象にした農業体験モデルコース以外にも、通年で楽しめるクラフト体験などのページももうけています。

また、体験農業部会の農家が顔写真つきで紹介されているほか、紀の川市産の四季折々の農産物もきれいなカラー写真で紹介していて、出色の出来映えといえるでしょう。

『旬果旬菜』

『旬果旬菜』で設定されたモデルコースで、紀の川市で農業体験や農家民泊、食育メニューを楽しんでいただきたいと思います。『旬果旬菜』は、付属CDのPDFをご覧ください(CDコンテンツ編⑧)。

② 食と農の語り部養成事業
農業体験や農家民泊の受入農家は、自分達の農業については誰にも負けない熱い想いや豊富な知識があります。しかし、農家が人前で話す機会は少なく、その想いを分かりやすく的確に伝えることは、苦手な人が多いのも事実です。

このため、和歌山放送の野々村アナウンサーに講師になっていただき、基本的な話術や知識を習得するため、「話すということ」を題材に研修を行いました。

野々村アナの気さくな人柄も手伝ってか、農家の方々も「上手な話し方」、「いい声のメカニズム」などの研修課題を楽しくこなすことができたようです。

「食と農の語り部」研修

日本では、「読み書き」の教育については、相当の時間とエネルギーをかけて行われますが、「話す」ということについての教育はおろそかになっている面は否めません。
参加した農家の方々に、「話す」ということを改めて意識していただくことができた研修になったと考えています。

(7)事業の総括と評価
地方の元気再生事業「食育のまち紀の川市~華岡青洲の生誕地から食育のまちづくりを発信~」は、平成22年2月20日に開催された第3回紀の川市食育フェアにおいて成果が発表され、ひとつの区切りを迎えました。

当日は、食育メニューのふるまい、米粉創作料理コンテストの表彰、食育カルタ大会や食育紙芝居の読み聞かせ、DVD『作り手の思いをつなぐ“学校給食”』の発表など盛りだくさんの内容となりました。同時開催された小浜市の中田典子さんの講演、県食育推進会議会長の橋本卓爾さんのコーディネートによるシンポジウムも、紀の川市の食育を市民に考えていただくきっかけになったのではないかと思います。

実は、3月、事業報告書をとりまとめて近畿農政局に提出する際、大変な事務作業が待ち受けていました。最後のとりまとめの時には、市役所の職員だけでなくJAの職員まで泊まり込みで作業を進めてくれました。彼らの並々ならぬ努力の結果、何とか事業を終了させることができました。
この事業に携わった関係者の皆様に改めて御礼申し上げます。

このプロジェクトの成果目標と指標について整理したものを以下に記します。

〇成果目標
① 青洲の里入場者数 5万321人(当初目標5万人)
② 食育に関する市民の認知度 95.8%(目標90%)
③ 紀の川市農村体験交流参加者数 1,910人(目標1,900人)

〇成果指標
① 複合性
紀の川市の食育に関する農業、教育等の様々な主体(JA紀の里、(財)青洲の里、市教育委員会等)が連携すると共に、近畿大学や和歌山大学の参画も得て事業を推進することによって、複合性の発揮が可能となった。
② 先導性・モデル性
「食育」をキーワードにした地域振興事業は全国でも例がなく、先導性・モデル性を有する。例えば、宿泊体験交流プログラムにおいて「食育メニュー」を採用し、農家民泊の観光客に地場産農産物をつかった食育料理を提供している取組は、他に事例がなく全国発信できる企画である。
③ 持続性
今後、本事業の成果を踏まえ、米粉創作料理コンテストの青洲の里バイキングメニューへの反映や、宿泊体験プログラムの本格的運用、食育研修会の有料化などにより、持続的な取組とすることが可能である。
④ 相乗効果・波及効果
本事業により「食育のまち紀の川市」がPRされることにより紀の川市全体の観光客の増につながることや、紀の川市産農産物のブランド化につながることが期待され、相乗効果・波及効果を有する。
⑤ 主体的な取組
民間団体等により構成された紀の川市食育推進会議により、本事業は主体的に取り組まれた。
⑥計画性
本事業は、平成20年策定された「紀の川市食育推進計画」に基づいた計画的な取組が行われた。

このように、3つの成果目標については目標数値以上の成果をあげることがきました。また、成果指標についてもそれぞれの項目をクリアすることができたと考えています。
こういった成果を踏まえ、平成22年6月11日に首相官邸のホームページで公表された紀の川市のプロジェクトは、何と最高の「AA」の評価をいただきました。
近畿管内29件のうち、AAの評価を頂いた地区は8件ありました。和歌山県では、北山村と紀の川市の2件のみAAの評価となっています。
紀の川市のプロジェクトに対する首相官邸の所見は、以下の通りです。

「『食育』をテーマに、複数の取組を意欲的に展開しており、イベントや研修会等への参加状況からも地域住民の関心は高まりつつあると思料される。
次年度以降の事業の本格展開に向けて、事業主体間の連携を高めつつ、「食育のまち」としての地域ブランドを市外・県外へも積極的にアピールする広報活動も進めていく必要があると思われる。」

このプロジェクトに参加した皆さんの地道な努力が、このような素晴らしい評価に結びついたと考えています。この評価を契機に、今後、「食育のまち紀の川市」のPRに弾みがつくものと考えています。

なお、地方の元気再生事業は最大2年間実施可能とされていて、本来であれば、紀の川市でも、この評価を踏まえて平成23年度に様々な食育の推進のための事業が行えるはずでした。しかし、平成21年11月に行われた行政刷新会議の事業仕分けの結果、地方の元気再生事業は廃止されてしまい、せっかくのAAという高い評価を次年度につなげていくことができなくなってしまいました。大変残念なことです。

紀の川市で取り組んだ地方の元気再生事業「食育のまち紀の川市~華岡青洲の生誕地から食育のまちづくりを発信~」では、多くの市民を巻き込みつつ、大きな成果を得ることができたと考えています。

特に、この事業の取りまとめには、農林商工部の男性職員と女性職員が並々ならぬエネルギーをそそいでくれました。彼らの頑張りがなければ事業そのものが成り立たなかったと思います。

改めて、彼らをはじめとした関係者の皆さんの努力に感謝し、敬意を表したいと思います。