私は、紀の川市に赴任して以来何曲か歌をつくり、発表してきました。『紀の川のほとりで』など、紀の川市ピンクリボンキャンペーンのテーマソングに採用されCD化にいたったものもあります。これも、この歌を歌っていただいた上名手(かみなて)小学校の児童たちをはじめ関係者のおかげと、大変感謝しています。
私の歌づくりは、高校時代からはじまりました。ギターやキーボードを奏でながら、歌づくりをするスタイルです。大学に進学後もバンドを組み、オリジナル曲をつくってきました。
一時は本格的に音楽を勉強してみたいと考え、大学に在籍しながら音楽の専門学校に通い、音楽理論などを勉強したこともあります。しかし、一方で専門的な音楽理論についての疑問も感じるようになりました。Cメジャーやドミナント、スケール等々いくら音楽理論を駆使した歌づくりをしても、真に人の心を打つ歌はできないのではないかということです。
人の心を打つ歌づくりには、何が必要なのでしょうか。
色々と考えていく中で、私は、ある種の人生経験を積み重ねていくことが大切なのではないかと考えるようになりました。
普通に就職をし、結婚をして子どもができて・・・当たり前のように見える人生の中でも、必ず喜怒哀楽があるものです。
歌というのは、そういった人生の一ページ一ページを写しとっていくようなものであるべきだし、そういった歌を作っていきたいと考えました。
私のつくる歌は、当初、恋愛をテーマにしたものが多かったのですが、農林水産省に就職してから日本全国の様々な地域に赴任する中で、「地域」をテーマにした歌づくりをするようになっていきました。
「地域」をテーマにした歌づくりの原点は、20代のころ、平成2年から2年間、市町村交流で赴任した鹿児島県末吉町での経験です。
地域に少しでも溶け込もうと考え、町役場勤務のかたわら青年団にはいり、ふとしたきっかけで鹿児島県青年大会の「のど自慢の部」に出場することとなりました。
県大会で自分が仕事とする土地改良事業をテーマにしたオリジナル曲『大地への刻印~土地改良の歌~』を歌った結果は、何と優勝。鹿児島に来て1年目にして、鹿児島県の代表として東京の神宮の森で行われた全国大会に出場することができました。その年11月に行われた全国大会でも、優秀賞という結果をいただくことができました。
が、本当に嬉しかったのは、鹿児島県の青年団の仲間達が自分のことのように応援し喜んでくれたことです。
農村で活躍する彼らと連帯感が心地よく、彼らを勇気づけるような歌づくりをすることが、自分の使命ではないかと感じた次第です。
青年団活動にも力がはいり、全国大会の直後、地域の青年団の団長まで引き受けるようになりました。
その後、青年団の仲間からのお誘いなどで県内各地に呼ばれるようになり、農村を元気づけるコンサートのスタイルを確立しました。
そういった中、鹿屋市の作家・郷原茂樹さんから声をかけていただき、地元の女性と村おこしバンド「みなみ風」を結成することになりました。「農村を勇気づける」というコンセプトでつくった「みなみ風」は、鹿児島県内で大きな話題となり、テレビや新聞など県内マスコミ等にも何度もとりあげられました。

CDをはじめて制作したのは、鹿児島を離れて3年ほどたってからです。鹿児島でつくった歌を中心に『からいも畑に陽が落ちて』というタイトルのCDを1000枚制作しました。クオリティの高いものを志向した結果、多額の製作費がかかってしまいましたが、後悔はしていません。このCDを制作したことによって、自分の人生がより豊かなものになったと確信がもてるからです。

平成14年から2年間、棚田や自然再生を担当し、棚田のすばらしさを歌に織り込んだ『棚田にて』や、環境に配慮した農法ふゆみずたんぼの取組をテーマにした『ふゆみずたんぼの歌』のCDを作成しました。
『ふゆみずたんぼの歌』は、宮城県を中心に自然保護活動を展開している「日本雁を保護する会」の会長である呉地正行さんの依頼によって作成しました。宮城の地元の小学生に「ふゆみずたんぼ合唱団」を結成してもらい、この歌を歌ってもらったは、得難い経験となりました。
また、関東地区の末吉町出身者の会・関東地区末吉会の方に頼まれて、『ふるさと末吉/君達の船』というCDもつくりました。このように、紀の川市に赴任するまでに作成したCDは、次の4枚となります。
『からいも畑に陽が落ちて』(平成7年)、
『棚田にて/妹よ』(平成16年)、
『ふるさと末吉/君達の船』(平成17年)
『ふゆみずたんぼの歌』(平成18年)、
こういった「地域」をテーマにした歌づくりは、農村振興という自分の仕事とシンクロ(同調)する部分があります。私にとっての歌づくりとは?と問われたときは、「自分にとってのライフワークであり、社会貢献活動です」と答えることにしています。
紀の川市に赴任してからも、「紀の川市をテーマにした歌をつくって残したい」という想いを強く持っていました。
結局、紀の川市でも5曲ほど歌を残すことができました。それぞれ、紀の川市の地域づくりに関わってきた自分だからこそつくることができた歌だと自負しています。
歌づくりは基本的にボランティアで行っていますが、歌づくりを通じた社会貢献が紀の川市でもできたことは、自分の人生にとって大きなプラスになったと考えています。
この本を企画するときから、これら紀の川市の歌を紹介するCD付きの本としたいと考えていました。私が紀の川市でつくった歌を以下で紹介していきたいと思います。また、紀の川市赴任直前にレコーディングを行った『帰ってきてくれたんか』についてもあわせてご紹介させていただいています。
ぜひ、付属のCDとあわせてお楽しみください。