紀の川市に赴任してから、次の5曲をつくったことになります。
○ 『紀の川のほとりで』(平成20年)
○ 『紀の川ぷるぷる娘の歌』(平成21年)
○ 『童男さんの歌』(平成22年)
○ 『あんたの済州島へ』(平成22年)
○ 『よさこいハイランド!』(平成22年)
5曲とも、音楽制作のプロ集団・ASORA社にアレンジをしていただき、大変素晴らしい楽曲に仕上げていただきました。
『紀の川のほとりで』の中に川のせせらぎの音を入れてほしいなど色々と無理な注文をしましたが、すべて快く受け入れてくれて、大変クオリティの高い楽曲となっています。
『紀の川のほとりで』と『紀の川ぷるぷる娘の歌』については、上名手小学校と西貴志保育所の子ども達に歌ってもらい、CD化することができました。『童男さんの歌』は、紀州わらべ歌粉河教室の皆さんと一緒に粉河とうろう祭で歌わせていただきました。
子ども達によって、これらの歌に「魂」を吹き込んでいただいたものと感謝しています。
また、市内の保育所では、『紀の川ぷるぷる娘の歌』を使って体操などをしているそうで、歌による食育推進とあわせて健康づくりにも役立つ、一石二鳥の取組となっています。中貴志コミュニティセンターの夏祭りの盆踊り曲にも『紀の川ぷるぷる娘の歌』を活用いただいているそうです。
紀の川市のまちづくりの様々な場面で、私がつくった歌を使っていただくのは、大変光栄なことです。
ASORA社のレコーディングディレクターに、「田中さんの歌は、すぐにヒットチャートをにぎわすわけではないけれど、地域に残っていく歌だからいいですね」と言われたことがあります。
私がつくった歌が、紀の川市の人々に歌い継がれていくようになれば、これ以上の喜びはありません。
紀の川市にきてから、「地域」で育まれてきた「音」を私の歌づくりにとりいれるようになりました。
『童男さんの歌』のバックに流れている太鼓は、粉河まつりで叩かれる『粉河祭だんじり太鼓』です。また、『よさこいハイランド!』で挿入歌としていれた『かちんぼ節』は、紀北地方に伝わる民謡です。
地域に伝わる民謡には、その地域の人々の体臭、彩り、想いなどが染み付いているような気がします。
例えば、紀の川市のお隣の岩出市につたわる『根来(ねごろ)の子守唄』には、秀吉の紀州攻めにあって全山焼き討ちにあった新義真言宗総本山・根来寺の歴史の悲哀が、そのメロディーと歌詞に詰まっていると思いませんか。
私が尊敬する作詞家・作家のなかにし礼さんも、『不滅の歌謡曲』(日本放送協会)の中で次のように述べています。
「各都道府県、各市町村がもし本格的に歌の発掘に努めたならば、民謡の名作を探し当てるだけでなく、それこそ日本人の失われた心を掘り起こす作業にもなるのではないかと思うのです。またクリエイターたちも、たとえばオペラのような新作をつくる場合は、その土地の醸し出す音というものをもっと重視すべきだと思います。
古い歌を探し出すという作業は、決して回顧趣味に走ることではありません。それは、土地と歌との関係の新たな発見であり、埋もれてしまった名曲の価値を新たに拾い上げるという積極的な意味があるのです。」
紀の川市でも、民謡や盆踊り歌、わらべ歌などが地域のコミュニティが失われていくとともに伝承されなくなってきています。私たちの地域に伝わる歌を発掘し、伝えていく不断の努力が必要です。
私自身も、今後、「地域」で育まれてきた「音」を大切にしながら、「地域」をテーマにした歌づくりを継続していきたいと考えています。
この本に添付するCDには、以下の6曲を入れています。
① 『紀の川のほとりで』(田中卓二)
② 『紀の川ぷるぷる娘の歌』(結まある、田中卓二)
③ 『童男さんの歌』(田中卓二)
④ 『大阪を離れて』(田中卓二)
⑤ 『よさこいハイランド!』(田中卓二、宮本静)
⑥ 『帰ってきてくれたんか』(田中卓二)
4番目の『大阪を離れて』は、『あんたの済州島へ』の原曲です。
子ども達の歌や宮本静さんの歌については、それぞれのCDを購入いただけると幸いです。
紀の川市では、たくさんの人々の応援をいただき、多くの歌を残すことができました。応援をいただいた一人ひとりの皆さんに改めてお礼を申し上げます。